⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第141号

私の抱く「危機感」について

 前職で安全衛生委員会事務局を6年間務めた私は、毎年9月末にある「全国交通安全運動」に警察の交通課長さんをお招きし、講話をお願いしておりました。昼食後の眠くなる時間帯であったことも災いし、講話の間はなんとか起きていた安全衛生委員も、会議室の照明を落としビデオを放映し始めと眠りに落ちる者が続出し、ビデオ終了時に点灯すると起きていたのはわずか数名だったこともありました。

 そこである年、交通課長さんを紹介するときに次のように切り出しました。「本日お招きしたK課長は、我々電線メーカーにとって守護神ともいえるお方です」一同、ポカンとしているのを確認し、続けます。「28年前、K課長が初めて逮捕した犯人は、電線泥棒だったそうです!!」

 この意表を突く講師紹介に、安全衛生委員の全メンバーは爆笑の渦に包まれました。最前列に座った強面のS工場長も、大笑いしています。これで眠気が飛んだのか、ビデオ放映中にも眠る者が現れませんでした。我ながらいい仕事をしたものです(笑)。

 交通安全講話の後、いったん署に戻り私服に着替えたK課長と総務部長、私の3名で定時後に近所の割烹で慰労会を催しました。その際、K部長はこう言いました。「私は仕事柄、色々な事業所さんに呼ばれて講演します」 「私の話が退屈なのか、皆さん本当によく眠ってくれます」 「寝息をBGMに講演していると、虚しさに襲われることもしばしばです」「しかし今日は全員が私の話を一生懸命聞いてくれました」 「この仕事をしていて、初めてやりがいというものを感じることができました!!」 「お礼を言うのは私の方です。今日は本当にありがとうございました」

 私の住む茨城県は当時例年、交通事故死者数ワースト1位の座を北海道と争っており、人口密度も低く道路整備状況もよい両者が、東京・大阪の大都市圏より死亡事故が多発しているのはなぜか疑問に思っていました。そこですっかり心を開いてくれたK課長にこの件について聞いてみました。

 「私も本件については責任者の一人として心を痛めています」 「東京都の方が人口密度も高くより危険な状況なのに茨城県より事故が少ない理由は、都民が危険であることをよく自覚し、危機感を持っているからだと思います」 「本件についてよくよく考えると、本当に危険なのは交通状況の危険度よりも、住民に危機感がないことなのではないでしょうか?」

 ここで話は変わりますが、過去80年の日本の歴史を振り返った時、大きな経済危機がいくつかありました。敗戦、オイルショック、バブル経済崩壊などです。1945年の第二次世界大戦に敗れた日本は ①工業生産力の82% ②海外領土および資産 ③世界第三位の海軍力、など明治維新後、77年間かけて築き上げた資産の多くを喪失しました( 310万の人命も失われました )。

 1991年の「マネー敗戦」は、ご記憶にある方も多いことでしょう。バブル経済崩壊に伴い地価と株価が大暴落し、1,400兆円の経済的損失を被りました。この損失を取り戻すのに実に32年間( 「失われた30年」 )を要しました。しかも地価は戻りませんでした。その間にアメリカの時価総額は12倍になり、中国にも抜き去られました。

 ところで皆さんは、今現在「そこにある危機」にお気づきですか? それは『DX』です。DXとは、業務遂行方法をアナログからデジタルに変換し、業務生産性(利益率)を飛躍的に向上させることですが、その準備( デジタイゼーションおよびデジタライゼーション )として ①属人化した仕事の「見える化」(データ整備)および共有化が必要です。また単に業務をIT 化しただけでは業務生産性はさほど向上せず、DXを成功させるには ②数値データに基づく科学的な組織マネジメントが必要不可欠です。

 問題なのはこの①②とも日本企業の組織的弱点であることです。経済産業省が2020年12月に発行した『DXレポート2 中間とりまとめ』には、実に95%の日本企業がDXに未着手であり、着手した5%の企業のDX成功率は14%(欧米は30%)という驚愕のデータが記載されています。両方のデータを掛けると、日本企業のわずか0.7%( 142社に1社!! )しかDXに成功していないことになります。DXが日本経済にとって事実上の「とどめ」になる可能性が極めて高いことがご理解いただけたでしょうか?

 同レポートではDXによる企業の選別は2025年に終わる(『2025年の崖』)とあります。あと2年半しかありません。それだけでも充分恐ろしいのに、海に囲まれたこの国の人々は、大陸の国と比べ基本的に危機感が欠如しています。また超大国アメリカの庇護のもと、戦後77年間戦争がなかったことから、要人警護を担当する警察ですら「平和ボケ」しています。こんなことで、本当に日本( 日本企業 )は一流の座に留まれるのでしょうか? 数年後には世界経済の「二軍」に転落していないでしょうか?

 これが、現在私が抱く「危機感」です。皆さんはいかがお考えでしょうか? 

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