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メルマガ第143号

御社は課長に「スーパーマン化」を強要していませんか?

 私の親戚(父方・母方双方)は教育関係者が3割強を占め、一族で幼稚園から小・中・高、予備校、大学・大学院、社会人教育まで網羅しています。年一回開催される『いとこ会』でも「この間、校長室に乗り込んできたヤンキー親父に、襟首つかまれて怒鳴られちゃってさ…」などという話が披露されています。

 かくいう私の妹も小学校教員でした。22歳でつくば市の某小学校に赴任した妹を待っていたのは、ザ・ブラック職場でした。「お兄ちゃんのほうが教えるのはうまいと思うけど、お兄ちゃんには絶対務まらないと思うわ」 「ずぼらでだらしないお兄ちゃんと違って真面目で几帳面な私だけど、そんな私だって雑用が多すぎて本当にきついのよ…」 「〇〇〇小は完全集団登下校なので、毎朝7時30分に集合場所に立ち寄り生徒数を確認するでしょ…」 「山のようにある雑用を片付けて帰宅するのは毎晩21時すぎ」 「それから毎晩かかってくるモンスターペアレンツの電話対応」 「新任なのをいいことに合唱部と合奏部の顧問も押し付けられて、夏休み期間の休日はたったの2日よ、2日!!」 「ちょっと!! 私の話をちゃんと聞いてるの? お兄ちゃん!!

 憤懣(ふんまん)やるかたない妹に給料を聞くと、残業・休日出勤手当はなく、手取りで月額10万円を割っていました(33年前の話です)。教育委員会のほうばかり見て、教員をまったく守ろうとしない校長に愛想が尽きたのか、5年務めただけで寿退職してしまいました。「あんたと違ってA子は上品に育てたつもりだったのに、校長先生のことを「あのクソババア!!」なんて言ってるのよ。あんなでお嫁に行けるのかしらねぇ…」と母が苦笑していたのを覚えています。

 ところで先日ネットで『先生はスーパーマンじゃない。― なぜ、学校はすごく忙しくなったのか?』という記事を読みました。一読して小中学校の「先生」と、会社の「課長(GM)職」の現状が、極めて似通っていることに気づきました。以下、記事の概要を列記します(原文は下記URL)。
→ 先生はスーパーマンじゃない。――なぜ、学校はすごく忙しくなったのか?(妹尾昌俊) – 個人 – Yahoo!ニュース

① 小中学校の教員が世界で一番長時間労働を強いられている。
② その原因は、教員に求める事項が多すぎるから
③ 日本の先生たちは、それほどスーパーマン(ウーマン)ばかりなのか?
④ そんな教員の勤務実態を知った若者たちは、教員を志望しなくなってきた。
⑤ 教育改革と呼ばれるものでやるべきことは増え、現場はさらに疲弊する。
⑥ 教員が個人商店化しており、チームで問題に対処したり組織力を高めるという考えがない。
⑦ 学校や教員にあまりにも多くのことを求め過ぎではないか?
⑧ 今の学校は「沈みゆく船」。このままでは学校・教師ともに持たない。
⑨ すでに子供たちや社会に悪影響が出始めている。
⑩ 新型コロナの影響で、保健所業務の代行もさせられている。
⑪ 生徒にパソコンを配布したため、セットアップや管理業務もやらされている。

 どうです?ご一読いただき、小中学校の教員が「社会の犠牲者」に思えてきませんでしたか?このような状況では、教員は「人間サンドバック」と変わらず、「教員業務=人間の耐久性試験」に他なりません。もし辞めていなければ、私の妹もメンタル不全を発症していたかもしれません。

 小中学校が教員にとって「生き地獄」と化した理由は、下記の文部科学省の一文(「公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針(改正案)」)なる文章を読めば一目瞭然です。以下、その一部を転記します。

 学校を取り巻く状況については、いじめ・不登校などの生徒指導上の課題への対応や貧困・虐待などの課題を抱えた家庭の児童生徒等への対応、インクルーシブ教育システムの理念を踏まえた発達障害のある児童生徒等を含む特別な支援を必要とする児童生徒等への対応、外国人児童生徒等への対応、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実と主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善、道徳教育の充実、小学校における外国語教育、一人一台端末環境を前提としたICT・教育データの利活用、STEAM 教育等の教科等横断的な学習の推進、進路指導及びキャリア教育への対応、学校安全への対応、幼児教育と小学校教育の接続、小中一貫教育及び中高一貫教育等の学校段階間接続等への対応、保護者や地域との連携・協働体制の構築などが今日的に求められている。変化し続ける社会や学校現場からの要請に的確に応えられるよう、これらの変化に対応した教員等の資質の向上が求められている。(全350字)

 これを読んだとき、前職で隣だった情報管理室長Oさんが、5日間の新任課長研修から戻り、そのテキストを見せてくれた時のことを思い出しました。そこには「会社が課長に求めること」として延々4ページにわたり課長のミッションが書き連ねてありました。

 「いや~、Oさん、課長っていうのは大変ですねぇ」 「ひょっとして、なって後悔してるんじゃないですか?」 と言うと、Oさんは堰を切ったように話しました。「残業・休日出勤手当がなくなった代わりにたった5万円の課長手当で実質収入減なのに、会社は課長に求め過ぎだよ!!」「会社規程に書けば課長はやるだろう、とこれを書いた奴は思ってるんだろうな」 「じゃあ、お前がやってみろよ、とそいつに言ってやりたいよ!!」 「書くだけだったら俺でもかけるわな、こんな規程」 「課長はスーパーマンだとでも思ってるのか?」 「これを書いた奴の顔を一度拝んでみたいもんだ!!」 普段温厚で知られるOさんのお怒りように、聞いたわたしの方がドン引きする一幕でした。

 これは決して特殊な事例ではありません。日本型組織は「スーパーマンの存在」を前提としている節があります。かつて月350時間もの時間外労働を強いられていたこの私が言うんです、間違いありません(苦笑)。

 ここで話は突然80年前にタイムスリップします。太平洋戦争は、主力空母4隻を失ったミッドウェー海戦で、その勝敗が決したわけではありません。その後のガダルカナル島作戦で勝敗が決定しました。同島に最寄りの基地はニューブリテン島(ニューギニアの上)の西端のラバウル基地で、その距離たるや850㎞です。そこから爆撃機と護衛戦闘機が、同島で苦戦する陸軍を支援するため連日飛び立ちました。

 正副2名のパイロットがいる爆撃機はともかく、1名で飛ばす戦闘機のパイロットにとって往復12時間におよぶ操縦は過酷なものでした。しかも出撃は毎日で、休日はありません。これでは歴戦のベテランパイロットでも堪ったものではありません。対する米軍は3ヶ月毎に1ヶ月の休暇( オーストラリア )が与えられます。日米両軍いずれのパイロットが士気が高揚するかは、言うまでもありません。

 その原因は皮肉なことに『ゼロ戦』の高性能にありました。太平洋戦争前半における最優秀戦闘機『ゼロ戦』は、パイロットが「スーパーマン」であることを前提とした設計でした。①航続距離3,000㎞超 ②防弾装備ゼロで、一発被弾しただけで火を噴く ③得意とする格闘戦(巴戦)は習得にかなりの修練を要する、これらがその証拠です。

 対するアメリカのF4Fワイルドキャットは①過剰なまでの防弾装備 ②習得が容易で危険度の低い一撃離脱戦法向けに設計されていました。ゼロ戦にチームワークで対抗するのに必要な無線機も装備されていました。その後1943年春以降に出現した後継機F6Fヘルキャット、F4Uコルセア等の2,000馬力級戦闘機に対し、1,000馬力のゼロ戦ではよほどのベテランでもない限り対抗できなくなりました。ゼロ戦に乗った新人パイロットの大半が初陣で被弾、火に包まれたコックピットから上官や戦友に敬礼を送り、太平洋の波間へと消えていきました。

 それから77年後の今日、経営者とスタッフのはざまで組織マネジメントの最前線に立たされた課長(GM)職の皆さんは、マネジメント不良に由来する諸問題の対処に日夜苦しめられています。そのうえ、会社の現状を無視した無謀なプロジェクトを推進し、成果を上げることを求められています。これでは過労による心身の損耗は必至で、課長昇進を拒否するものが現れるのも当然です。社の中核をなす課長がこのありさまでは、経営者の描くビジョンなど「絵に描いた餅」に過ぎず、その実現は80年前のガダルカナル島奪還と同じく「夢のまた夢」です。

 ここまでお読みいただいた経営者や人事・総務・管理部長の皆さん、お願いですから課長(GM)に過大な要求をしないでください。彼らは確かに有能ですが、決して「スーパーマン」ではありません。そして苦しむ課長(GM)を見殺しにしないでください

 また課長(GM)職の皆さん、現状に絶望しないでください。皆さんにその意思さえあれば、この状況を自力で解決できます!! 諦めてしまっては、それこそ座して死を待つだけです。

 今回ご紹介したネット記事には「スーパーマンの存在を前提とした政策、制度は実に危うい」とあります。そして文末には「沈みそうな船に子供を乗せたい親はいない」とも書かれていました。

 御社は課長に「スーパーマン化」を強要していませんか?

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