⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第120号

御社は経営改革ができる 組織風土ですか?

 組織マネジメントを専門とするコンサルとしてデビューして、今年で10年を迎えました。『組織マネジメントシステム(OMS)』はベンダー各社がパッケージソフトの形で販売していましたので、私はOMSの自社構築方法指導を売り物にしました。先行する巨大企業との競合を避ける戦略が功を奏したのか、「10年後の生存率4%」という厳しい世界で、私はなんとか生き延びることができました。

 そんな私が起業当初から気にしていたデータに「OMSの普及率」があります。しかし結論から言うと、「OMSの普及率」に関する統計は見つかりませんでした。

【注】「OMS」という言葉は角川の造語。欧米では通常「ERP」という言葉が使われる。ERPは基幹業務システム ②組織マネジメントシステム の2本で構成されるが、日本では通常①のみ導入されているケースがほとんど。そのためERPという言葉を使うと「自社導入済み」と錯覚される恐れがあるため、あえてOMSという言葉を作り使用している。

 統計データがないので独自に調査した結果、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドの企業で、OMSの存在が確認できました。この知見から、日本より労働時間が短く、かつ給与水準の高い国はOMSが普及している、と考えています。

 それらの先進諸国に対し、日本でOMSはほとんど普及していません。私の「見える化」セミナーの冒頭で実施している『こんなことでお困りではありませんか?【管理職編】』の回答結果から、このことが判明しました。誰もが知っているような有名企業ですら、例外ではありませんでした。

 現場では戦前より生産管理システムと品質管理システムが存在し、生産性と品質を高レベルで両立させていたこの日本で、なぜ間接業務(事務所)ではOMSが普及しないのか? 私は不思議でなりませんでした。皆さんは、なぜだと思いますか?

 本件に関する私の結論は、「改善」は得意な反面、「改革」や「革新」は不得意な国民性がその理由、というものです。以下、事例を挙げて説明します。

 前職で総務部員だった時の話です。任意保険(生命保険)は10名以上契約者がいると団体割引(3%)が適用されますが、前任者はそれを契約者に還元していました。しかも給与天引きする金額は手計算で、給与グループに紙データで提出していました。

 このあまりに前時代的かつ非効率な業務遂行方法を改め、Excelでデータを作成し給与グループに渡したところ、受け取りを拒否されました。給与グループの主任(労働組合担当)が言うには「仕事のやり方を変えるときは、たとえどんなにメリットがあったとしても、一つでもデメリットがあったら俺は絶対に認めないぞ!!」とのことでした。今考えても紙データの電子化に何のデメリットがあったのか不明ですが、新参者の私に従来の仕事のやり方を否定されたのが気に食わなかったのでしょうね。

 頭にきた私がネットで調べた結果、団体割引料の契約者還元が所得税法違反であることを突き止め、総務部長から労組委員長へ通達する形で、この違法業務の撤廃に成功しました。ちなみに電子データ化の方は、後年業務監査に来た親会社の人に「今どき御社は何をやってるんですか?」と言わせることによって実現させました(苦笑)。

 その後、慢性的過重労働により死にかけた私を拾ってくれた新しい上司(部長・元労組委員長)はある時こんな話をしてくれました。「労組の委員長になって組合員を代表して会社側と交渉する立場になったときによ、労働組合の主張の論理的根拠とはいったい何なのか真剣に考えたんだよ」「それがはっきりしねぇことには、堂々と交渉できねぇんじゃねえかと思ってよ…」 「ところがよ、それが見つからねぇんだよ(苦笑)」 「さんざん考え、組合OBにもヒアリングした結果、「既得権死守」しかなかっぺ、ちゅう結論に達したわけよ」 これを聞き、前述の主任(労組担当)の言ったことが初めて理解できました。

 今考えると、こんな組織風土の会社で給与の銀行口座振り込み(現金手渡し廃止)やLANの導入がよく断行できたものです。これはあくまでトホホ事例の一例に過ぎず、私が引き継いだ仕事のほとんどすべてに非効率な業務遂行方法が見受けられました。本件は、私が前職の将来に不安を感じた最初の事例に過ぎません。

 話は変わりますが、技術史を振り返ると「技術史=技術革新史」であることが分かります。18世紀半ばにイギリスで始まった産業革命 (手工業から機械工業への転換) の際、機械に職を奪われることを恐れた労働者たちにより、工場打ちこわし運動 (ラッタイト運動) が起きました。また木造船から鉄製の船への転換期にも、船大工が大挙して造船所を襲ったことがありました。これらの事例から分かることは、技術革新の最大の抵抗勢力は、既得権に固執する労働者であることが分かります。当時の経営者が労働者の抵抗に屈して技術革新を断念したら、今日その会社が存続していないことは明白です。

 これらの抵抗をしている人は、本人は必死なのかもしれませんが、はたから見るとあまり共感を得られません。時流に合わせようとする自助努力が感じられないからです。オンライン化に抵抗するセミナー講師たちが頭に「団結」と書かれた鉢巻をして、セミナー会社さんの前で「俺たちの仕事を奪うな~!!」 「早くリアルセミナーを復活しろ~!!」などとシュプレヒコールを上げている光景を想像してみてください(笑)。あなたは彼らに共感できますか?

 同様のことが経営改革でも言えます。経営者(リーダー)は、たとえ労働者が反対しても自分が正しいと思った方向に思い切って舵を切り、経営改革を断行することが求められます。経営環境の転換期に会社が存続できるか否かは、経営者の資質に大きく左右されます (メルマガ第117号「御社に「真のリーダー」はいますか?」参照)。

 ここまでの話は経営者についてでしたが、実は従業員にもできることはあります。日本でOMSの普及が遅れている理由の一つに、経営者がOMSの存在とその価値を知らないことがあげられます。自部署でOMSを自力構築し、運用を開始して成果を上げ、それを社内でオープンにする (業務改革事例報告会に参加or自主開催)くらいなら従業員でもできます。主任・担当者クラスの私の「見える化」セミナー受講者は、皆そのようにしてOMS導入を推進していきました。

 現在コロナ禍によって会社の屋台骨がぐらついています。こんな時こそ、経営改革(OMS導入)の千載一遇のチャンスです。格闘技では技をかける前に相手の態勢を崩すのが常套手段ですが、現在会社の態勢が崩れています。平常時なら部長クラスでも困難な改革も、今なら担当者でも成功する可能性があります。会社に技をかけるなら、今しかありません!!

 あなたさえ「その気」になれば、御社の「坂本龍馬」として所属部署のみならず、全社を動かすことだって決して夢物語ではありません。ちなみに 「老人が人生で後悔していること」の第1位は「やるべき時に、やるべきことをやらなかったこと」だそうですよ。

 御社は経営改革ができる組織風土ですか?

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