⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第138号

御社は社内コンサルを「見殺し」にしていませんか?

 前号のメルマガでは、私の前職のK部長の辣腕(らつわん)ぶりについてお話ししましたが、Kさんは最後の大仕事となった基幹業務管理システムの導入に失敗し、部下なしの閑職に左遷されました。

 親会社の指示で導入が決定した同プロジェクトは、トヨタ系コンサル会社の社長講演でスタートし、社内に同社のコンサルが常駐、フォローアップ会議は毎週開催、と膨大な経営資源を投入し、文字通り社運をかけて挑みました。

 事務局は各部署からKさんが引き抜いた6名の精鋭が専従で取り組みました。経営者がまったく無関心なボトムアップ活動( QCサークル、改善提案 )の事務局だった私は、人・物・金のすべてが揃った『チームK』を見て、心底うらやましかった記憶があります。

 しかし、この大プロジェクトは現場作業者の総スカンを食い、ものの見事に失敗しました。面倒なPCへのデータ入力が増え、作業者に何のメリットもなかったせいです。この事態に恐れをなした経営者は、生産管理システムの導入だけで同プロジェクトを中止しました。そして2年後に現場の怒りが沈静したのを見て、私に品質管理システム導入を担当させ、こちらは成功しました。
 
 ここで皆さんに質問です。なぜ『チームK』は失敗し、私は成功したのでしょうか?
 
 Kさんも私も、根っからの業務改革者である点は同じです。ただし業務改革の推進方法に大きな違いがありました。Kさんはトップダウン推進による活動事務局しか経験がなかったのです。しかも事務方No.1の実力の持ち主であることが災いして、チーム員がKさんについてこれず、しばしば独走しがちでした。

 そんなKさんとは対照的に、私はボトムアップ活動事務局が専業でした。総務部員として安全衛生事務局を務めたのが、私の社内コンサル人生の第一歩です。安全衛生は通常、従業員に強制力を持つ勤労課が担当するのですが、前職ではなぜかしら福利厚生部門である庶務課が担当していました( 総務の花形である勤労課の人は、労災発生で夜中に守衛から電話で叩き起こされるのが嫌だったのでしょう )。

 そのため工場内でヘルメットを被っていない作業者を見かけても 「ルールを守れないなら会社を辞めてください!!」とは言えず 「被らないと危ないですよ~」 というお願いベースの事務局です。強制力ゼロなので、ヘルメットを被らせる( 被っていただく? )には作業者の同意と納得が必要です。監督省庁である労働基準監督署が聞いたら、仰天することでしょう(笑)。

 しかしこの日本の外交( 交戦権なし )を彷彿させる『弱腰事務局活動』こそ、後年私を成功率100%コンサルにしてくれたきっかけとなりました。

 私は若いころ現場作業者を経験しているので、彼らの考え方と気持ちがよく分かります。現場の行動原理は実は単純で「自分たちにメリットがあればやる。なければやらない」 ただそれだけです。つまり 「成功するプロジェクト = 当事者にメリットのあるプロジェクト」 ということです。

 この考え方は、後に間接業務( 事務所 )の社内コンサルになった際も有効でした。そうして私は数々の業務改革・改善プロジェクトを企画立案・推進し、成果を上げてきました。
⇒ 7_1.pdf (tmsri.com)

 対してKさんは就職以来、間接業務しか経験がなく、現場作業者の気持ちなど分かるはずがありません。両者の違いは、システム導入後に現場を巡回する時間帯の差となって現れます。Kさんが定時間内に回るのに対して、私はあえて21時以降に回りました。この時間帯なら作業者の「本音」が聞けるからです。こうしてひとり一人の作業者と会話し、与太話をして笑わせることによって随所に角川ファンを増やした結果、経営者も諦めかけていた現場への品質管理システム導入は成功しました。

 ここまで読んで「 チェッ、今回も自慢話かよ!!」 と思った、そこのあなた!! 元総務部員が、スキルも経験もなしに「返り討ちにしてやる!!」 と手ぐすね引いて待ち構える作業者相手に、彼らに何のメリットもない品質管理システムを導入するプロジェクト事務局を務める悲惨さが分かりますか? それはあたかも、太平洋戦争末期に最高時速200キロの複葉練習機で、護衛戦闘機もなしにアメリカの機動艦隊に特攻を命じられた新米パイロットのようなものです。

 そんな「 ないないづくし 」の私には、2人の味方がおりました。一人は私の上司(部長)、もう一人は親会社の情報管理部門のSEであるH氏です。H氏は私の職務経歴( 営業 → 総務 → 品管 )を聞き 「会社もひどいことをするねぇ…」 「これじゃあ、角川君に「 死ね! 」って言っているのと変わらないじゃないか!!」 といたく同情してくれ、なぜかしら闘志を失わない私を全面的にサポートしてくれました。

 もう一人の私の上司は、当メルマガにもたびたび登場しますが、元労組委員長で「影の工場長」と言われた実力者でした。上司は私の見えないところで、役員やキーパーソンに色々と工作活動をしてくれました。また、しばしば絶望の淵に立たされた私を、温かくフォローしてくれました。この上司がいなかったら、私は抵抗勢力に潰されていたことでしょう。

 今こうして当時を振り返ると、この2人のサポートなしには、さしもの私も刀折れ矢尽きてあっぱれ討ち死にしていたに違いありません(笑)。改めまして深く感謝する次第です。

 以上をまとめると、社内コンサルによる業務改革プロジェクトを成功させるには、技術面と精神面双方のサポートが必要不可欠です。これなしでは、社内コンサルにとって事実上の「死刑宣告」となることをくれぐれもお忘れなく。

御社は社内コンサルを「見殺し」にしていませんか?

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