⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第25号

御社は従業員に無理をさせていませんか?

 初めに次の報道記事をお読みください(少々長いです)。

 三菱自動車の燃費データ不正問題で、三菱自は26日、燃費の基準になる走行抵抗の測定法について、20年以上にわたって法令と異なる方法を使用していたことを明らかにした。今後、調査委員会が原因を究明するが、三菱自は開発費が他社より少なく、開発部門が不正に至る要因になったのではないかとの見方は少なくない。

 自動車各社は技術開発に巨額の投資が必要だ。各国で規制が強化される中、燃費や排ガスなどの厳しい基準をクリアし、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)なども開発しなくてはならない。今後は自動運転技術も不可欠になる。

 ただ、2000、04年と相次いだリコール(回収・無償修理)隠しで経営危機に陥った三菱自は、三菱商事などグループの支援を受け、再建に取り組んできた。その過程で、「開発費や人員が抑えられてきた」(関係者)側面がある。15年度の国内8社の研究開発費見通しでも、トヨタ自動車が1兆円、ホンダや日産自動車も5000億円以上。富士重工業は1015億円で、販売台数は同じ100万台規模でも三菱自は820億円と見劣りしている

 業界での生き残りには事業の“選択と集中”が必要で、三菱自も12年の欧州、15年の米国での自動車生産の撤退など、投資の効率化を進めてきた。富士重が12年に軽自動車の自社生産から撤退する一方で、三菱自は日産と提携することで軽事業を維持。結果的にピックアップトラックから軽まで手がける。富士重はトヨタからHV技術の提供を受けているが、三菱自はEVなど電動化技術を自前で開発している

 他メーカーからは「すべて自社でまかなうには企業規模が小さい」との声も漏れる。
今回の不正で、その限界が露呈した可能性があり、今後、事業の選択や再編を迫られる恐れがある。(以上 4月27日のSankei Biz より引用)

 この記事を読んでの私の率直な感想は、今回の不祥事もやはり「起きるべくして起きた」んだな、というものです。この記事のポイントは次の2点です。

  1. 前回の不祥事の影響で競合他社と比べ研究開発費が乏しかった。
  2. にもかかわらず、多種多様な製品ラインナップを維持し続けようとした。

 一言でいうと、従業員に無理をさせていたのでしょう。

  本来であれば前回の不祥事発生時に総花的なラインナップを諦め、人・物・金の経営資源を競合他社に勝てる製品に集中すべきだったと思います(以前お話しした「簡単には負けない将棋の指し方」を思い出してください)。そう考えると今回の不祥事発生の根本原因は、経営者の判断ミス(というより「経営資源の集中」を決断しなかった怠慢)にあると言えるでしょう。
 
  ここで話は変わりますが、困り果てた経営者(上司)が希望的観測(「あいつだったら何とかしてくれるに違いない」等)で部下に無理な指示を出すことがあります。思うに今回の事件の当事者とされる元担当部長氏は、おそらく『エース社員』だったのではないでしょうか?『エース社員』とは上司の無理に無理と言わず、何とか要求を満たしてしまう優秀な社員のこと(角川用語)ですが、今回の事件では『エース社員』の「光と影」の「影」の面がモロに出た感があります。

 私が『間接(設計)業務の「見える化」』セミナーの冒頭で毎回お話ししている『「見える化」の遅れが招いた悲劇』の主人公である総務部長と設計部長のお2人方も、掛け値なしの『エース社員(会社の宝)』でした。無理を無理と言わない(言えない)『エース社員』が一度パンクすると会社の存続すら危うくする事件を起こす点も、今回の三菱自動車の事件と実によく似ています。

 「偉そうに講釈垂れやがって、角川、お前が当事者ならどうする気だ!!」 全国の『エース社員』の皆さんから、お怒りの声が聞こえてきましたね。はい、私ならこうします。ただし一種の「劇薬」的手段ですので、悪用および濫用はしないでください。

  1. 自部署のAIOSを作成し、業務の実態を定量的に「見える化」する。
  2. 上司の業務命令に対応する人的余力がないことを確認する。
  3. 無理を強要しようとする上司に、その業務命令が経営資源(人数と能力)的に無理であることを定量的に説明する。
  4. 「それでもやれ!!」という場合は、「私はできないことを上司に報告する部下としての義務を果たしましたので、今後何か問題が起きた場合はあなたの責任となりますがよろしいですね?」と問い返す。
  5. その際に「今後わが社で発生することが予想される事例です」として、三菱自動車事件の記事やTMS研メルマガ(3つの悲劇、等)を上司に手渡す。
  6. 上司とのやり取りはICレコーダーに録音しておく。

 ここまで読んで「これは上司への脅迫じゃないか?そんなことできるか!!」と思われた方、もしあなたがこれをやらず上司の無理な業務命令に従った場合、何が起きるか考えてみてください。①あなた自身が心身に異常をきたすあなたを信じてついてきた部下が心身に異常をきたすやむを得ず不正行為を行い、発覚した際に会社を危機的状況に追いやる、のいずれか(もしくは全部!!)が近い将来起きることでしょう(これは脅迫ではありませんよ)。

 ある程度の無理は従業員や部下を育てる効果もあることは私も認めます。私自身そうやって育てられてきました。しかし永続可能な無理は、そもそも無理ではないともいえます。問題は従業員の心身の健康や私生活を犠牲にしてまでやらせる「無理」です。この「無理」はもはや「愛のムチ」とは言えず、犯罪に近いものがあります。昨今叩かれているブラック企業が問題なのはまさにこの点です。この経営方針は短期的には爆発的な利益(生産性)を上げます。しかし長期的にはその利益を上回る不利益が発生します。これが「無理」の「無理」たるゆえん(理に適っていない)です。

 御社では従業員(貴部署では部下)に「無理」をさせていませんか?

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