⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第27号

御社は従業員に無理をさせていませんか?(その2)

 私の『間接業務(設計部門)の「見える化」セミナー』の冒頭で、「業務「見える化」の遅れが招いた3つの悲劇」と題して、私が前職で経験した事例についてお話ししています。その内容は次の通りです。

 従業員に無理をさせると『3つの悲劇』が起きる。このうち、①健康障害者発生②メンタル不全者発生は本人にとっては悲劇だが、会社にとってはまだましと言える。会社にとって本当に恐ろしいのは③業務不良発生だ。特に間接業務不良はカバーする保険(労災保険やPL保険等)がなく損害賠償が会社丸かぶりの上、法的制裁(製造物の無期限出荷停止等)の他、社会的制裁(取引停止、不買運動等)があるケースまである。

 ところで、なぜ従業員は「無理」をするのでしょうか?スタッフレベルで考えられるのは①自分のミスを隠ぺいするため②大きな成果を上げ上司にアピールするため、 などがあげられます。これらはスタッフ個人の意思で行われる「無理」ととらえられがちですが、その「真の要因」はその類の「無理」を誘発するシステムの欠陥であることがほとんどです。ですからスタッフを責める暇があったらシステムの欠陥を直し、再発防止を図るべきです(私の経験では、トヨタ自動車はこの点が非常に優れています)。

 今回取り上げるのは、経営者(上司)や顧客の無理な要求な応えるべく、「無理」を承知で行った事例です。これらの事例は、要求するサイドと要求されるサイドに絶対的な主従関係があることが事例発生の前提条件になっています。小難しい表現をしましたが、要はビジネス社会のあちらこちらに普通に見られる条件(状態)です(皆さんの会社や業界にもきっとあることでしょう)。

 私が以前読んだ脳科学の本に「人間は失敗からしか学べない程度の知能の生き物」とありました。また失敗学の本には「失敗事例から学ぶことこそ、人類が進歩する唯一の手段」とも書いてありました。ぜひ下記事例紹介を、皆さんにとっての「他山の石」としてください。

 最初に紹介する事例は、日本近現代史上特筆すべき事例『神風特攻隊』です。米英から『自殺攻撃』と恐れられ、メンタル不全者を多発させたことでも知られています。歴史講義ではないので、太平洋戦争で神風攻撃隊が発足した理由をごく簡単に説明します。

 この作戦は、わずか100機のゼロ戦(戦闘機)で7,000以上あるフィリピンの島々をアメリカの攻撃から守るという無茶苦茶なミッションを大本営(戦争遂行機関)より与えられた現地司令官(大西瀧治郎中将)が苦慮の末決断したものでした。発案者の同中将は「統率の外道(こんなものは作戦ではない)」との言葉を残した(終戦時に自決)。軍隊では上官の命令は絶対で逆らうことはできないため起きた悲劇と言えます。この作戦では、文系の大学生(学徒出陣)を含む数千人の前途のある若者が死んでいきました。

 この作戦始動の遠因として「神州不滅(日本は絶対負けない)」などという論理的根拠のまるでない世論を形成したマスコミ(新聞)の責任もあります。今日第三者的視点から見ると、大本営が定めた『絶対防衛圏』の一角であるサイパン島が陥落した時点(1944年6月)で連合国に降伏すべきでした。そうすればその後日本国民を襲う3つの悲劇、①B29による無差別爆撃(全180都市が罹災)②沖縄での地上戦③広島・長崎への原爆投下は防げたはずです。この3つで優に100万人以上の死傷者が出ています。

 さて次にご紹介するのは、私の前職(電線メーカー)の子会社(電線加工メーカー)の事例です。この事例は、顧客の注文と違うコネクタを付けた製品が出荷される事態が散発したのを不審に思った品質保証部長(私の上司)の調査の結果、真相が判明したものです。その内容は次の通りです。

 【前提条件】
 この加工子会社では親会社から天下りしたワンマン社長が君臨しており、その周囲は『イエスマン』で固められていた。たまに異を唱える者がいると、即座に左遷するといういわば恐怖政治が横行していた(同社にたまに私が指導に行くと、株式会社というより宗教法人のような印象を受けたものです)。

 【発生状況】
 その社長がある日、コネクタ加工品の受注当日出荷を厳命した。何万点もあるコネクタを常備しきれないため、実現不可能な命令である。しかし命令は絶対なため、非在庫品のコネクタの注文が入ると在庫している中で一番形状の似ているものを電線に加工してお客様に発送、それと同時並行して秋葉原まで受注したコネクタを買いに行き、お客からクレームあり次第、正しいコネクタを付けた製品を再発送するという奇策をとっていた。

 ことの真相を知った品質保証部長(私の上司)は、「あいつらは日本メーカーの魂である「良心」が欠如している」と激怒していましたが、皆さんは本件の真の発生原因は何だとお考えになりますか?私は、この加工子会社のスタッフをとても責める気にはなりません。むしろ与えられた経営資源でなんとか経営者の要求事項を満たすべく、スタッフとして精一杯の仕事をしたとさえ考えています。

 私は前職で設計部長が監督省庁に虚偽のデータを提出した不祥事が発覚した際、工場長の特命を受け社の全部署の業務内容を精査する機会を与えられました。その際に判明した事実は「総務(管理)」「設計」「品質保証」の各部署が、業務の質・量共に過重労働に陥っているということでした。従業員の実に三分の一を切る『平成の大リストラ』後だったため、どの部署もマンパワー不足に苦しんでいましたが、前述の3部署は業務の「量の増加」プラス「質の変化」に苦しんでいました(添付『②設計部門の現状おかれている状況』を参照ください)。

 経営環境の変化(非正規雇用者の増大、コンプライアンス、顧客要求の強化、各種規制の強化等)がその主原因で、過去に経験したことのない状況下、「団塊の世代」の退職で質・量とも低下したスタッフのマンパワーで業務遂行の責任を負う各マネージャー(課長)の置かれた状況の悲惨さは、ヒアリング調査した私に「この会社で課長になったら俺は1年以内に死ぬな…」とまで思わせるレベルでした。
 
 後日談ですが、AIOSで各部署のマンパワーが数値データで明らかになった某課長から「角さんのおかげで随分気が楽になったよ。前はなんとしてもやらなきゃと思っていたけど、誰の命令でもできねぇもんはできねぇもんなぁ、ははは」と吹っ切れた表情で言われた時は、私も少しは世の役に立っているのかな、と嬉しかったものです。

 御社は従業員に無理をさせていませんか?

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