⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第15号

御社はボトムアップ活動の本当の「すごさ」をご存じですか?

 今回のメルマガタイトル「御社はボトムアップ活動の本当の「すごさ」をご存知ですか?」ですが、皆さんの会社では現在どのようなボトムアップ活動をされているでしょうか?また、トップダウンでやらずボトムアップで活動する意味とは何なのでしょうか?

 『ボトムアップ活動』というと普通思い出されるのは『QCサークル(小集団)活動』や『改善提案活動』ではないでしょうか?私は双方の事務局を務めた経験がありますが、前職の工場ではどちらもすっかり形骸化・沈静化していたという話は以前いたしました。その内『改善提案活動』についてはメルマガ第8号で詳細に説明しましたので、今号では『QCサークル(小集団)活動』について私の経験したことをお話ししたいと思います。今回は少し長いので、お時間のある時にお読みください。

 『QCサークル』について今回改めてWikipediaで調べてみると「雇用契約の観念が曖昧で終身雇用を基本としている日本においてのみ見られる」という一文に目が止まりました。実によく真相を捉えた文だと思います。「雇用契約の観念が曖昧」というのは、勤務時間外にこの活動が行われていたことを指しています。簡単に言うとサービス残業です。2007年11月名古屋地裁で下された判決でトヨタ自動車が敗訴して以来「自主的なカイゼン活動」も給与支払いの対象である「業務」という位置付けになったことは結構有名な話です。するとその途端、QCサークル活動を停止した会社が現れました。以前は「どうせ無給なんだから好きにやったら?」というスタンスだった経営者が、給与支払いの対象となるや活動を即停止した理由はなんでしょう?私は単に「費用対効果が乏しいから」だと考えています。

 一つの課題に対して職場の全員で『QCストーリー』に従って一定期間(半年)活動し、その後部署内発表会に向け準備し、うっかり選ばれてしまうと今度は社内発表会に向けてパワーポイントで資料を作成し、毎晩遅くまで寸劇の練習をする、というのがQCサークル活動でよく見られるパターンです。この流れを見るだけでお気づきかと思いますが、ものすごい時間(工数、マンパワー)が掛かっています。これは従業員に長年無給でやらせていたため、「生産性」という概念がこの活動には決定的に欠けているためです。そんな活動を給与支払い対象である定時間内にやられたら、経営者はたまりません。

 Wikipediaの説明にあった「終身雇用を基本としている日本においてのみ見られる」という箇所も実に味わい深いものがあります。以前は雇用が守られていたのでQCサークル活動でも安心して工数削減をテーマに活動できましたが、現在では大げさに言うと自殺行為です。また、私のいた会社では雇用の不安定なパート社員や派遣社員もQCサークル活動に参加していたので、活動が活性化するはずがありません。また頼りの正社員ですら「毎日が人事異動」状態となって以来、仕事の繁忙状況に応じて貸借工等で別の職場へ移ってしまうため、QCサークル活動を行う土壌がそもそも存在しませんでした。前年度親会社の全社発表会で社長特別賞を受賞したサークルから活動報告書が提出されなかったので、私は現場に行ってサークルリーダーにヒアリングしてみたところ次のような事実が発覚しました。

  1. サークル員12名は現在3つの職場に分散してしまい、それぞれシフトも異なるため、合うことすら困難。
  2. 昨年度社長特別賞を受賞した活動は、全部先代の事務局A山氏がシナリオを書いたもので、サークル員はただ発表(寸劇)の練習をしただけ。

 特に私を驚かせたのは②です。その後、他の職場の技術員にもヒアリングしたところ、どこも同じ状況であることが確認できました。その後、上司と相談の上で私はQCサークル活動を停止する決断をしました。どう考えても実施できる状況にないのに活動を継続させる方がおかしい、と考えたからです。こうして半世紀に亘って歴代の経営者をだまし続けてきた虚偽のボトムアップ活動に終止符を打ちました。その後、茨城県QCサークル活動の幹事会社だった親会社からは相当な圧力を掛けられましたが、上司ともども折れませんでした。今考えると、実にいい度胸の子会社社員だったと我ながら感心します(苦笑)。

 上司がQCサークル活動停止を認める条件として私に与えた指示は、代わりのボトムアップ活動を立ち上げることでした。その一つが以前紹介した『改善提案活動』の進化版『改善報告活動』です。その他に小集団活動として、5S活動を立ち上げることとしました。他社事例を見るとトップダウンでやることが多い5S活動ですが、私は以前見学した他社の工場で、社長とコンサルがトップダウンで強力推進した結果社員がやる気をなくし、活動後に見事にリバウンドした5S活動事例を見ていたため、ボトムアップでやることを上司に主張しました。「ボトムアップだとコンサルの先生は呼べないけど、誰が指導すんの?」との問いに、行きがかり上やむを得ず「私がやります!!」と答えました。

 その後、①東京開催の5Sセミナー受講②他社工場の5S活動事例見学③5S関連書籍の購読、で知識を仕入れ、いよいよ社内コンサルとして5S活動を立ち上げました。その際に一つ決めていたことがあります。それは5S活動を現場に強要することは絶対にやめよう、ということです。事務局は、各職場に組織を編成し、毎月5S活動を送付し、現場を回って激励・アドバイスをするだけです。活動の進捗は一覧表で「見える化」するものの、「管理」はしません。そんなことをしても、QCサークル活動と同様に「やったふり」をされるだけだからです。

 ここまでお読みになって、皆さんは「こんな緩い活動方法で本当に成果なんか出るのかなぁ?」とお思いではないでしょうか?それが出たんです、2つの職場で。1つは、数年前に吸収合併した事業所で起きました。製品置場管理の部署で女性パート社員1名しか出荷作業ができないという「見える化」度ゼロの職場でした。そのパートさんの「何か用事のある時に年休が取れません!!」という悩みに職場長が応えました。私の指示書以上の活動内容に、私は毎月その職場を訪ねるのが楽しみでした。あとから事務所の人に「職場長のOさんって、工場長の言うことも聞かない頑固者で通ってるんですけど、なぜ角川さんのいうことは聞くのか皆不思議がっています」と言われたことも妙に印象に残っています。5S活動終了後半年で、当該する製品置場は別の建屋に移動となるのですが、この部署は新しい場所でもただちに「見える化」度100%の製品置場を再構築していました。このことからもこの5S活動が決して「やらされ」活動ではなく、そこで働く人が本当に「やりたい」活動だったことが皆さんにもご理解いただけると思います。

 もう1つは、昭和36年の事業所開設の時からある歴史ある工場建屋内で起きました。その工場は機械から出る煙等で昼なお薄暗く、作業者も荒(すさ)んでおり労働組合活動が盛んな、事務局からするとなかなかに厳しい職場でした。5S活動も当初は全く無視されており、私自身「ここはダメだろうなぁ…」と観念しておりました。ところが5S活動開始から半年後、突然5S活動が始まったのです!!活動の徹底ぶりときたら、機械の裏カバー等見えない箇所までペンキが塗られており、機械から後光が差している錯覚にとらわれる程です。その現場の主K原氏(同氏も相当な頑固者で、部課長はおろか工場長までもが一目置く御仁でした)に私の上司が5S活動を始めた理由をヒアリングしてきたところ、その工場で全然相手にされていなかった5S活動事務局の私に「憐れみ」を感じて始めたら5S活動の楽しさにはまった、とのことでした。何が幸いするか分かったものではありませんね(笑)。

 K原氏の担当ラインは工場建屋の右側だったのですが、左側のラインでも負けず劣らず魂の入った5S活動が始まりました。早速ヒアリングに行くと若手のオピニオンリーダーO氏いわく「K原の野郎になめられてたまるか、と思ってよ」とのことでした。そうなると居心地が悪いのは真ん中のラインです。あたかもオセロゲームのように白と白にはさまれた黒が白にひっくり返るのに、さほどの時間は要しませんでした。その結果、顧客の工場見学ルートから長年外されていたこの工場は、重要顧客や親会社社長の工場見学時にも案内者が誇りを持って案内できる模範職場へと生まれ変わりました。この5S活動は完全に自主活動のため、活動に終わりはなく日々進化を続けています。従業員の「やりたい」活動の「すごさ」について、私はこの事例から学ばせてもらいました。

 現在日本の会社ではトップダウン活動ばかりで、ボトムアップ活動は陽の当たらない存在になっています。しかし、活動を強要せず従業員の自主性に任せれば、時間はかかりますが素晴らしい活動になることがあります。また、どうしても「やらされ」感がつきまとうトップダウン活動を成功させるには、ボトムアップ活動を並走させる手段が有効です(添付『TD活動とBU活動の対照表』をご参照ください)。これを知っている人は、非常に稀です。

 私がボトムアップ活動にこだわる理由は、実はもう一つあります。経営学は欧米諸国が進んでいるとされ、後進国日本はそれらを盲目的に学習し、企業活動に役立てようとしています。この傾向は『失われた20年』によって日本的経営に自信を失い、MBA(経営学修士号)を無暗にありがたがるようになった風潮に現れています。ところが欧米流経営学にはトップダウン活動しか存在せず、ボトムアップ活動はありません。なぜでしょうか?

 以前のメルマガでもお話ししましたが、欧米流経営学の組織マネジメントは「従業員にいかに多くの仕事をやらせるか?」がテーマであり、その理由は有史来『奴隷制度』が社会の根底にあったことに起因していると考えられます。ここで添付『ヨーロッパ諸国の植民地地図』をご覧ください。紫色の国々が旧宗主国、青色の国々が旧(現)植民地です。薄青色の国々(トルコ、中国(清))は準植民地です。軍隊がそこそこ強かったので完全な植民地化は免れました。さて我々の祖国日本は何色でしょうか?灰色ですね。地図上にわずか6箇所しかない灰色の国々とはどんな国なのでしょう?

 ①アラビア半島内部は、ただの砂漠です。20世紀に石油が発見されるまで、誰も見向きもしなかった土地です。②中国(清)の一部は列強によって分割統治されました。③タイは植民地化を防ぐため国土の一部を英仏に割譲し、両国の植民地の緩衝地帯として独立を維持できました。④アフガニスタンもタイ同様に英露の緩衝地帯でした。⑤アメリカ合衆国北西部はインディアンが最後まで抵抗した土地です。⑥日本については説明は不要でしょう。1853年ペリー来航から1905年日露戦争終戦までの日本の辿った道は、正しく世界史上の奇跡と言えるでしょう。

 いささか解説が長くなりましたが、欧米列強による帝国主義の風が吹き荒れたあの時代に、まがりなりにも独立を保てた非ヨーロッパ諸国はたった3ヶ国しかない、という史実を皆さんは認識されているでしょうか?そしてなぜ私がこの話をしたかというと、植民地にならなかった国に「やらせる」欧米流マネジメント手法は合わない、ということを訴えたかったからです。我々日本人には「やらせる」活動は、他の諸外国と比べて効果が薄い、もしくは最悪逆効果なのです!!

 私はこのことを、自分自身が担当・推進してきた多くのプロジェクトや改善活動から学びました。そしてこの事実を日本中に知ってもらうことこそ、日本が本当に復活する唯一の道ではないかとさえ考えています。私が開発したメソッドはすべて根幹にこの考え(『従業員性善説』)があります。

 御社はボトムアップ活動の本当の「すごさ」をご存じですか?

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