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メルマガ第124号

御社は「総力戦」で勝てる体制を構築済みですか?

 私を本好きにしてくれたのは、高校の国語教師だった母親です。私がおとなしく本を読んでいると母はご満悦の様子でした。中学2年の時、帰宅すると一流大卒のインテリ奥様が来ていました。「真也、どこ寄ってきたの?」との問いに「本屋で文庫本を買ってきた」と答えると、母は自慢げです。続く奥様の「それは立派ね~」 「ところで何の本を買ってきたの?」との問いに「谷崎潤一郎の『痴人の愛』です」と答えると、大爆笑されました。母は真っ赤な顔になり「早く自分の部屋へ行きなさい!!」と怒りました。今考えると、実に親不孝な息子でした(笑)。

 そんなある日、母の書架に『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』という気の利いた名前の本を発見しました。著者名が『塩野七生』とあり、性別も読み方も定かではないのが記憶に残りました。大学生となり、私の乱読リストに塩野さんの本も加わり、『わが友マキアベッリ』『愛の年代記』『レパントの海戦』『コンスタンティノーブルの陥落』等々を読んだものです。古代ローマを中心に地中海諸国の栄枯盛衰を題材に書かれた一連の著作にいたく感心した私は、将来娘が生まれたら『七生』と名付けることに決め、それは17年前に現実のものとなりました。

 知る人ぞ知る作家だった塩野さんは『ローマ人の物語』という大作(全15巻)に挑み、14年の歳月を経て完成しました。このころから知名度が上がり、月刊文芸春秋に連載を持つようになります。それをまとめたものが『日本人へ 〇〇〇〇編』として、数年おきに出版されています。『日本人へ 危機からの脱出編』は2013年に出版されました(文春新書)。

 先日同書を再読したところ、最終章(P248)の 「ラストチャンス」中の一節に目が留まりました。そこには次のように書かれていました(以下、要約)。「政治とは、実に簡単な原理に立つ。それは自分たちの持てる力を最大限に活用した場合に成功する、というものである」 「私が通史を書いた古代ローマ帝国とヴェネツィア共和国は ①高い文明水準を維持しつつ1,000年以上長生きした②持てる力を最大限に活用した、の2点が共通している」 「個々のスペックを見れば両国のライバルのギリシャ・カルタゴ、フィレンツェ・ジェノヴァに劣っていた」 「だが、それら全体を統合する能力で両国は優っていた」 「これを政治力というのではないかと思っている」

 いささか引用が長くなりましたが、当メルマガ読者の皆さんなら、私がなぜこの箇所に目が留まったかお分かりでしょう。そうです、塩野さんのおっしゃる「政治力」とは、企業における「組織マネジメント力」に他なりません。「持てる力」は「4つの経営資源(人・物・金・情報)」のことです。メーカーの強さを表す指標は「製品開発力」「納期」「品質」「ブランドバリュー」「営業力」「財務力」等々いろいろありますが、「特定の指標だけが突出した会社」 vs 「全体最適化に成功した会社」の戦いは後者が勝つ、ということです。

 競合他社の4つの経営資源の評価の合計が100、御社が70だったとします。そして他社の経営資源有効活用率が60%、御社が100%(フル活用)だった場合、勝つのは御社ということになります。この勝敗を決したものは「組織マネジメント力」であり、その原動力は『組織マネジメントシステム(OMS)』です。

 第二次世界大戦中、連合国は下記事例のように経営資源のフル活用を図りました。対する日本はどうだったでしょうか?

【ソ連】 主力戦車T-34の操縦は非常に容易で、工場から前線までは女性工員が搬送した。また女性の狙撃兵部隊も組織され、実戦に投入された。
(日本) 操縦マニュアルが難解で、戦車を操縦できる兵はごく少数だった。女性は従軍看護婦としてのみ活用され、そのマンパワーは「銃後の守り」の美名のもと死蔵された。
【アメリカ】 「兵器は質より量」との考えから仕様の標準化を徹底し、戦場(ユーザー)からの要望を無視して派生型を一切作らず、ひたすら同じ型を作り続けた。また設計も生産性を重視しており、戦闘機は多少のスピード低下を承知の上で直線でデザインされていた。
(日本) 軍部の要望が絶対視され、それに応じて次々と改良型が開発された。また工芸品のような「美しさ」を兵器にも要求した結果、戦闘機は優美で繊細な曲線でデザインされ、その生産性は考慮されなかった。
【イギリス】 ドイツ海軍の潜水艦の攻撃から輸送船団を効率的に守る必要性から、民間の数学者・統計学者に『OR(オペレーションズ・リサーチ)』を開発させる。これにより護衛艦を増やさずに、輸送船の損失を37%も減少させることに成功した。
(日本) 学者や民間人の「頭脳を活用する」という考えがまったくなく、軍人の硬直化した頭から斬新なアイデアが生まれることはほとんどなかった。

 以上はほんの一例に過ぎませんが、この事例だけでも日本の「組織マネジメント力」は劣悪であることが、お分かりいただけたことと思います。

 先の敗戦から76年経った今日、イージス艦(現代の戦艦)の艦長を女性(大谷三穂一等海佐)が務める時代です。「最後の聖域」と言われ、つい最近まで男性しか配属されなかった潜水艦にも先日女性が配属されました。海上自衛隊は陸・海・空の中で一番人気がなく(長期間拘束され、その間携帯は使用禁止)、その人員充足率は70%で男女差別している余裕がなかったとはいえ、靖国の英霊が知ったらびっくりするような状況となっています。

 男でも滅多に務まらない空挺団(落下傘部隊)にも先日、男と全く同じ条件のテストを見事クリアした女性隊員(橋場麗奈三等陸曹)が入隊しました。有史以来男性社会であり続けた軍隊ですら、女性のマンパワーを活用しようとここまで努力しています。そんな時代に、女性管理職がいない会社に優秀な女性が入社を希望するでしょうか?

 ウイズコロナそしてアフターコロナと、御社を取り巻く経営環境は日々激変しています。ビフォーコロナ時代の組織マネジメント方法に固執していては、会社はあっという間に傾いてしまいます。プロペラ機vs.ジェット機、戦艦vs.空母、電子計算機vs.パッケージソフトの各事例は、私たちに「変化することの必要性」を教えてくれます。

 御社は「総力戦」で勝てる体制を構築済みですか?

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