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メルマガ第79号

御社は「個人戦」で生き残れると本気でお思いですか?

 大量の蔵書を整理している時、書架に小冊子(全32ページ)を発見しました。処分しようかと思いましたがなぜか気になり、その晩寝る前に目を通しました。『歴史に学ぶ』(ダイヤモンド社 2010年4月発行 非売品)という販売促進用のブックレットです。その中に『日本戦史発掘 第4回 強兵の呪縛 (海上知明 著)』という記事がありました。テーマは、中世の日本を襲った国難『元寇』についてです。

  この記事は「兵一人ひとりの戦闘能力が低い「弱兵」の軍と、個々の戦闘能力が高い「強兵」が集まった軍とが集まったら、どちらが勝つだろうか」という一文で始まります。皆さんはどちらが勝つと思いますか?

  その続きです。「多くの人が瞬時に「強兵の軍が勝つに決まっている」と考えるに違いない。しかし歴史の指し示すところ、これは確実な事ではない。それどころか、弱兵の軍が勝つことの方がいたって多いのである。もちろん強兵であれば個々の突破力で難しいと思われる局面を打開することもできるであろうし、細かな指示をしなくてもその力をあてにできるので指揮もしやすい。だが実際の戦争においては、兵の強さと軍としての勝率は必ずしも比例しないのである」

 どうです、皆さん。「なんだ、この文章は。何を言っているのか俺にはまったく理解できんぞ!!」という方がほとんどではないでしょうか?

  学校の歴史の授業では「元寇」を「鉄砲等の新兵器で武装した元軍が、2度にわたり圧倒的な兵力で日本を襲撃したものの、台風(神風)襲来によって撃退した」と教わった記憶がありますが、この記事を読む限り史実とはだいぶ異なるようです。

【第一次元寇(1274年、文永の役)】
元軍 28,000人(精強なモンゴル兵はわずか、大半は被征服民である漢人と高麗人)
日本軍 100,000人(日本の歴史上最強と言われる鎌倉武士)

  単純に兵力比だけで3~4倍、しかも元軍は海上を遠征しての来襲です。その上、元軍は歩兵ですが、迎え撃つ日本軍は騎兵(馬に乗った兵隊)です。兵隊の士気だって天と地の差があります。どう見ても日本軍が圧倒的に優勢であり、元軍に負けるはずありません。ところが史実では日本軍のボロ負けです。なぜなのでしょうか?

  鉄砲や毒矢等の新兵器に悩まされたの事実ですが、それ以上の問題は戦略と戦術の不在でした。元軍は集団で組織的に戦いましたが、日本軍は武士がおのおの名乗りを上げて一対一の個人戦を挑もうとしました(諸説あり)。戦いに際して武士の作法に乗っ取り、戦始めの合図である鏑矢(かぶらや)を放ったところ、元軍の爆笑を買ったという記述もあります。

  武士たちの奮戦も空しく、元はついに博多に侵入し市街を焼き払います。しかし、その晩の暴風雨により元軍は壊滅、日本軍は辛くも勝利します。

 皆さんは「一度の失敗は大目に見るけど、二度目は許さないぞ」と部下を教育していると思います。失敗学の見地からすると「失敗は成功の母なので1回は仕方ないが、失敗から学ばないのはNG」ということになります。しかし鎌倉幕府は、この失敗から学ぼうとしませんでした

【第二次元寇(1281年、弘安の役)】
元軍 東路軍 : 42,000人(モンゴル・高麗連合)、江南軍(南宋) : 125,000人
日本軍 250,000人(武士)

  前回の教訓から、日本は博多沿岸に20キロにおよぶ元寇防塁を築いていました。これはさすがに功を奏し、元軍は別のところから上陸し日本軍を撃破します。そして再度博多を攻撃しようというその時に、またもや暴風雨に遭遇し壊滅します。

  「元寇」で鎌倉幕府を支える軍事力の無力さが発覚したにもかかわらず、幕府は思い切った軍政改革に着手せず、むしろこの戦争の経過を隠ぺいしました(今も昔も変わりませんね)。

 この史実から私たちは何を学ぶべきでしょうか? 戦争を左右するのは、個々の武勇ではなく、戦略と戦術である、と筆者は説きます。この記事の最終章を転記します。

  「弱い兵を率いる指揮官ほど、策を練り上げる。絶えず訓練して精強さを保っている兵は、個人としては強い。しかし集団同士のぶつかり合いによる戦闘において、無策のままで個々人の戦いに期待しても、集団としての敗北が待っているだけである」

 「鎌倉武士に代表されるような強兵が、個人の武勇に頼って戦っている限り、それは恐ろしい存在ではない。強兵が真に恐るべき存在になるのは「個人の武勇」という呪縛から解き離れ、優れた指揮官によって組織化され、戦略や戦術に則って集団で行動するようになってからである。敵に戦略と戦術に長じた指揮官がいなければ、いかに強兵の軍と言えども、恐れるにはたらないのである」

 皆さんに課題を一つ。上の文章を今日の会社組織に置き換えて書き直してみてください。きっと腑に落ちるはずです。

  書店のビジネス書のコーナーに行くと、『パソコンの神ワザ』 『すごい仕事術』 『超効率仕事術』 『最強の働き方』 『プレゼン資料作成術』 等々、個人のスキルアップによって業務生産性を高めようという本が多数並んでいます。それらの本を否定する訳ではありませんが、個人のスキルアップにばかり頼っていては元寇の教訓が活かされず、『組織マネジメントシステム』という武器で「組織戦」を挑んでくる海外の競合他社に敗れ去ってしまいます
 
 「「個人戦」で挑む軍隊は「組織戦」で挑む軍隊に勝てない」という700年以上前の教訓から未だに学ばないなんて先人に申し訳ない、と思うのは私だけではないはずです。

御社は「個人戦」で生き残れると本気でお思いですか?

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