⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第21号

御社の設計部門は「働きすぎ」てはいませんか?

 今回のメルマガでは、日本メーカーが革新的な製品を生み出せない理由を独自のアプローチで迫ってみたいと思います。

 マーケティングの世界での日本の位置づけは「フィニッシャー(仕上げ屋)」です。他国が研究開発し製品化したものを、使いやすく(特に小型化)壊れにくく洗練させることによってマーケット(市場)で高いシェアを獲得する、というのが明治維新以降工業化した日本が何度も行ってきた「勝ちパターン」でした。明治時代の生糸から始まり、繊維、造船、半導体、パソコン、自動車等はすべてこの経緯をたどりました(よくよく考えたら、日本がフィニッシャー化したのは明治以降ではありませんでした。1543年に種子島に火縄銃が伝来したことはよく知られていますが、そのわずか20年後にヨーロッパ中で最高級火縄銃として崇められたブランドが『TANEGASIMA』、すなわち日本製だった事実はほとんど知られていません)。

 日本の「勝ちパターン」によりさんざん痛い目に合わされてきた欧米先進国では、日本が出てきたらその製品はもうおしまい(勝てないor旨味がない)、と言われています。では欧米先進国はどうするかというと、一次元上の製品を研究開発するのです(プロペラ機 → ジェット機等)。そうすることによって日本製品との直接対決を避け、日本製品を「型遅れ(旧式)」化する戦略です。つい最近YS-11以来53年ぶりに国産中型ジェット旅客機MRJが試験飛行に成功し国中が湧いていますが、この市場は現在先行する2社(ボンバルディア(カナダ)、エンブラエル(ブラジル))による寡占状態です。日本人としてMRJの商業的成功を祈りますが、前述のマーケティングの知識があるとまた別の見方もできると思います。

 またこの「勝ちパターン」を知っていると、松下電器(現パナソニック)の「二番手商法」は実に日本的な戦略だと分るし、常に革新的な製品を市場に投入し続けるソニーが日本より海外で評価が高い理由も理解できると思います。

 このように日本は「フィニッシャー(仕上げ屋)」であり、欧米先進国(「イノベーター(革新者)」)の「フォロワー(追従者)」であるわけですが、ここで皆さんに質問です。日本はなぜ「イノベーター(革新者)」になれないのでしょうか?さらに突っ込むと、日本メーカーの一体何が悪いのでしょうか?

 近年家電の世界では、長らく成熟製品と思われてきた分野で画期的な製品が登場しました。掃除機のダイソン(イギリス)、自動掃除機のルンバ(アメリカ)、揚げ物調理器のノンフライヤー(オランダ)等です。皆さんも家電量販店の店頭や、深夜のTVショッピング番組等でそれらを目にして感心されたのではないでしょうか?

 これらの製品は発売後すぐに国産メーカーも類似製品を発売したところをみると、技術的にさほど難しい点があった訳ではないのでしょう。ではなぜ海外メーカーに作れて国産メーカーには作れなかったのでしょうか?私は国産メーカーの設計者に「創造力(新しいものを考え、作り出す力)が欠如していたためだと考えています。

 設計者に「創造力」が欠如している理由は大別して①暗記中心に偏り、自力で考えることを教えない学校教育の問題②慢性化している設計者の過重労働、の2点が上げられます。その内、今回は②の過重労働についてお話しします。

 今から35年前、私は高校からの帰り道、自転車事故で頭がい骨骨折を負い40日間入院しました。私が入院して数日後、同じ病室に40代後半のおじさんが担ぎ込まれてきました。この方は某大手メーカーの設計者でした。なんでも半年前から設計部が超繁忙状態となり、部員のほとんどが会社に寝泊まりする状態だったとのことでした。すでに何人か倒れており、「次は誰だろうなぁ」と言っていた本人が倒れたと、彼が力ない笑顔で語っていたのを覚えています。

 それから四半世紀が過ぎ、私も某メーカーの総務部員として早出・残業・休日出勤と三拍子そろった過重労働者として日々をおくるはめになるわけですが、これだけ長い時間会社にいると、どこの部署が楽でどこの部署が大変かよく分かります。私のいた会社も、設計部の人はいつも残業・休日出勤していました。休憩時に設計者の話を聞くと、雑用ばかり多くて肝心の設計に充てる時間が取れないとのことでした。その当時、私自身も月間残
業時間300時間超と追い詰められていたのでよく分かるのですが、恒常的に超過勤務状態となると過労から思考能力が低下します。はっきり言って、この状態ではいい仕事などできるはずがありません。まして知性を総動員する必要がある設計という業務は不可能と言えます。「これじゃあ、他社を圧倒するような新製品が開発できるはずもないよなぁ…」と私は横からいつも思っていました。

 確かに設計部はやることが多く忙しい部署ですが、このような状態を放置しておいていいはずがありません。私のいた会社ではこの状態を放置した結果、画期的な新製品が出るどころか、監督省庁に偽造書類を提出し会社が出荷停止処分を受ける事件が起きる始末です。組織マネジメントが正常に機能していないと、過労による心身不全者が発生する他、最悪このような事態を引き起こす可能性もあります。

 では、設計部門の組織マネジメントはどうしたら良いのでしょうか?どの会社でも経営環境の厳しい昨今、設計者を増員するのは難しいでしょう。となれば仕事を減らすしかありません。仕事の減らし方は①ムダ取り②業務効率(事務生産性)向上、の2つの手段があります。その大前提として、設計部門の全業務の実態を定量的に把握する必要があります。病院で「検査」なしに「治療」があり得ないのと同じ理屈です。AIOS(オールインワンシート)で業務の実態を「見える化」し、雑用に掛ける工数を最小化し、本来業務である「設計」により多くの工数を割けるシステムを構築しない限り、設計部門の状況と体質は変わりません。設計部門の過重労働問題を解決しないと、市場から評価を受けるような製品を送り出すことができずメーカーとして先行きが暗くなるばかりか、前述のような不祥事や設計不良(検討不足)により大事故が発生し市場から撤退させられる危険性が高いです。

 昨今世間をにぎわす製品不良事故の報道を目にするたび、35年前病室に担ぎ込まれてきた設計者のおじさんの顔を思い出します。そして製品不良事故の真の原因は、組織マネジメント不良による設計者の過重労働放置が多いのでは?と感じています。

 御社の設計部門は「働きすぎ」てはいませんか?

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