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メルマガ第117号

御社に「真のリーダー」はいますか?

 コロナ禍による緊急事態宣言も今回で3回目となりました。ワクチンの有効性を疑問視する向きもあり、一向に収束の気配が感じられない今日この頃です。そんな状況に対し世間には「諦め」と「慣れ」が交錯しており、緊急事態延長に対しても無抵抗の様子です。

 そんな先の見えない状況において、各国の大統領・首相、各都道府県の首長、WHO他の関連団体のトップの力量が注目を浴びています。平時にはなかなか分からない組織トップ(リーダー)の力量ですが、こと非常時(戦時)には誰の目からも明らかになるからです(将棋の世界では「棋力の強弱は、不利な局面での指し方で分かる」と言われています)。

 優秀なリーダーが率いる組織は危機的な事態を打開し、ピンチをチャンスに変えることができます。その一方で凡庸なリーダーが率いる組織は危機を乗り越えられず、ピンチ →破綻のコースをたどってしまいます。リーダーの優劣は、その組織に所属するものにとってまさしく死活問題なのです。

 ところで『優秀なリーダーの定義』とはいったい何なのでしょうか? 私見では次の通りです。

① 平常時は部下に任せ、進捗を確認するのみ。
非常時には自ら先頭に立ち、改革を断行する。
③ トップになった瞬間から、次のトップを育て始める。

 リーダーの役目は一言でいうと「組織の未来を切り拓く」ことにつきます。組織構成員に明るい未来を示し、夢と希望を与えることこそリーダーの仕事です。「組織」を「会社」に置き換えると、従業員(部下)に夢と希望を与えることができるのは社長(部課長)の「職務(義務)」であると同時に、社長(部課長)にのみ許された「特権」です。

 しかし昨今のような厳しい経営環境下では従業員(部下)に、なかなか夢と希望を与えられないことでしょう。そんな時、優れたリーダーは「笑い」を提供します。ハリウッド俳優からカリフォルニア州知事 → アメリカ大統領となったロナルド・レーガン氏は1981年3月30日に拳銃で狙撃され、病院に搬送されます。緊急救命室(ER)で待ち受けた執刀医に「諸君がみな共和党員だといいんだがねぇ」と同氏は笑顔で問いかけました(同氏は共和党)。

 この一言でERにいた医療関係者は笑いに包まれ、緊急手術は成功しました。同氏の渾身のユーモア精神は、大統領狙撃というショッキングなニュースに不安を募らせていた国民を安心させ、「生命存続の危機」というこれ以上ない大ピンチをたった一言で「全国民の信任獲得」のチャンスに転換してしまったのです!! 退院後復職した同氏は「レーガノミクス」と軍拡を強力推進し、東側陣営トップの旧ソ連に追随を強要し経済破綻に導き、戦後長らく続いた冷戦時代を終結させました。

 それに引き換え、我が国はどうでしょうか? コロナ禍に収束の気配が見えず、むしろ被害が拡大している現在、信じられないことにまだ東京オリンピックの中止(or延期)が決まりません。調査では国民の80%以上が反対しているというのに、これはいったいどういうことなのでしょうか? この国は本当に「国民主権の民主主義国家」なのでしょうか? 世界中が日本の動向に注目している現在、リスクを取って国民を導くことのできる「真のリーダー」は、はたしてこの国にいるのでしょうか? 

 原爆投下の直後の昭和20年8月10日、皇居で開催された御前会議でポツダム宣言受諾の是非について内閣の重臣たちが討議の末、決を採りますが「戦争継続派」と「宣言受諾派」が同数で会議は暗礁に乗り上げます。その時、オブザーバーの昭和天皇がご自身の意見を述べ、先の大戦はようやく終結しました。76年前の国家存亡の危機の時ですら、この国のリーダーたちはリスクを取って決断できませんでした。

 リーダーがリーダーとして機能しない(or機能しないシステムとなっている)ことは、日本型組織の特徴です。太平洋戦争開戦時の首相東條英機は、内閣総理大臣の他、内務、外務、文部、商工、軍需の各大臣を兼任していましたが、その理由は首相の権限が他の大臣と同列だったからです。歴史教科書では、ヒトラー、ムッソリーニと並ぶ「枢軸国の三悪人」とされる東條ですが、全権を掌握していた他の2名とは比較にならない権力しか持ち合わせていませんでした。諸大臣の任命権や罷免権すらないようでは、国家の最高責任者としてのリーダーシップなど発揮しようがありません。

 また日本でリーダーが育たない理由の一つが、組織マネジメントシステムの不備です。「リーダーの思う通り動いてくれない組織」の長になど、いったい誰がなりたがるのでしょうか?

 当時国内で潤沢に取れた石炭を液化した『人造石油』の研究は、昭和12年から国家プロジェクトとして開始され、当時の国家予算の実に26%が投入されました。太平洋戦争が米国の対日石油輸出全面禁止から勃発していることから分かる通り、人造石油の開発はまさしく日本の命運を担っていました。

 昭和16年6月23日、担当官僚の口から人造石油がいまだ実用化には遠く及ばないことを知らされた東條は、大臣室に響き渡る大声で「日本の技術者は、今までいったい何をしておったんかあっ!!」と絶叫します。そんな東條に対しこの官僚は、机上に広げられた世界地図の蘭領インドネシアを無言で指さします。東條は官僚の目をギロリと見据えてこう言いました。「泥棒せい、というわけだな?」 かくして開戦と同時に「空の神兵」なる空挺部隊が輸送機からパラシュート降下による奇襲作戦で、オランダによる設備破壊の前にパレンバンの油田制圧に成功します(『昭和16年夏の敗戦』猪瀬直樹 著より)。

 こんな史実を知っていると、東條が「枢軸国の三悪人」どころか「悲劇の主人公」に見えてきます。戦争に必要な経営資源(人・物・金・情報)の最たるものである「石油」に対する情報が、全くのデタラメなのですからね。組織マネジメントが正常に機能していない組織のトップは本当にかわいそうです。犠牲者と言えます。

 しかし東條は東京裁判において一切自己を弁護することなく、天皇を守ることのみを目的として臨みました。そして天皇が戦犯にならないことを見届けた上で、「天皇陛下の第一の忠臣」の矜持を胸に、巣鴨プリズンの処刑台に立ちました。

 この事例から、御社の未来を担う次世代リーダーが安心して組織トップに就任するには、組織マネジメントシステムの整備が必要条件であることがお分かりいただけることでしょう。これなしには「東條英機の悲劇」が御社において再現されてしまいます。

 国際政治学者の西鋭夫先生(スタンフォード大学教授)は、その講演会の最後で「日本の一番の問題はリーダーの選び方です」とおっしゃってますが、実態はさらに厳しく、現在の日本では「リーダーとして選ぶに値する人財」が払底しかかっています。昨今、急激に支持率を落とした菅首相ですが、その後任候補者の一覧を見て私は愕然としました。なりたい職業ランキングで「政治家」が「彫り物師」の次だった、という国会答弁を安倍前首相がしたことがありましたが、政治家軽視のツケがついに顕在化し始めたと思うのは私だけでしょうか?

 御社に「真のリーダー」はいますか?

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