⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第135号

あなたは自社の「弱点」にお気づきですか?

 40年以上も将棋が趣味の私は、盤上を俯瞰(ふかん)すれば自陣・敵陣の「強み」と「弱点」をつかめるようになりました。しかし、そんな私でも自分自身の強みと弱点を把握することは困難です。その理由は ①判断材料となるデータの入手およびデータ化が困難②自分自身のこととなると弱点を認めたくない心理が働き正確に判断できない、です。

 経営コンサルとして起業・独立し、自身のホームページを立ち上げる際、プロフィールの内容(下記URLより閲覧できます)には悩みました。なぜならこの商売は自分自身が「売り物」だからです。

 プロフィールの作成資料として私の半生記『人生の失敗学』がありましたが、その内容を一言でいうと「転職を繰り返し、行く先々で失敗をしている」です。客観的に見て、こんな人(私)のセミナーやコンサルを受けたい人がこの世にいるとは思えませんでした( 苦笑 )。

 また他のコンサル先生のプロフィールを拝見すると、「某一流企業に23年勤務」「元事業本部長」 「ハーバード大でMBA取得」 「技術士(経営工学)」等々、すごい方ばかりです。前職をすでに退職していた私は「こんな立派な先生方と同じ土俵に立って、はたして勝算はあるのだろうか? 」という不安を感じつつ、自分の「売り( 強み )」について必死に考えました。

 その結果、①有名会社出身 ②高い職位を経験 ③一流大学卒 ④難しい資格保持者のいずれにも該当しない私の「強み」とは「弱点の裏返し」であることに気づきました。

 アップルの人に負けないようにグーグルに就職する、ハーバード大卒の人に対抗して東大に入学する、司法試験合格者に見劣りしないよう公認会計士を目指す、という正攻法だけが戦争に勝つ戦略であるとは限りません。1960年代国力がピークだったアメリカが圧倒的な戦力で10年戦ったにもかかわらず、小国ベトナムに勝てなかった事例を見れば、強者には強者の戦い方が、弱者には弱者の戦い方があることがお分かりいただけるはずです。このことを認識し、弱点の露呈を防ぎつつ強者の弱点( 強みの裏返し )を突く戦略をとれば、弱者でも容易には負けません。

 私が自分の「強み」「弱点」を把握できたのは、①過去に自分自身を客観的に見て『半生記』を作成していた ②将棋のおかげで「強み」「弱点」が表裏一体であることを深く認識していた、の2点によります。しかし、こういったバックグランドをお持ちでない方が自分の「強み」 「弱点」 を正しく把握することはとても困難です。私のコンサル経験からも断言できます。

 日本人は他人をほめる習慣がないので、強み( 長所 )に気づく人が少ないのは分かります。問題は弱点( 短所 )に気づかない理由ですが、こちらは周囲から指摘されるので、実際には気づいている人が大半です( 見て見ぬふりをしているだけです )。

 問題はその先にあります。自分の弱点( 短所 )を素直に受け入れられるかどうか、です。このステップをクリアしないことには、弱点補強(治療)という次のステップへ進めません。自分の至らぬ点( 短所 )を認めるには、心理的苦痛を伴います。しかしその苦痛を乗り越えない限り、進歩しません。それでは一体どうしたらいいでしょうか?

 前号でご紹介した『奇跡のレッスン』シリーズに登場した一流コーチは、7日間の指導日の初日に現状把握を実施しています。普段している練習方法をじっくりと観察し、指導するチームの「強み」「弱点」を見抜きます。「弱点」がはっきりしない場合は仮説を立て、生徒に課題を与えることによって検証します。このステップは、病院でいうと「検査」にあたります。

 2日目から弱点補強を行います。併せて弱点をカバーしつつ強みを最大化する目的で、戦い方(経営戦略)とポジション(業務分担)の変更を行います。これらの変更には、新たな技術の習得が必要となります。一流コーチは生徒たちが見たことも聞いたこともない斬新な練習を指示します。最初は戸惑っていた生徒たちも練習方法のユニークさに気づき、楽しそうに取り組みます。このステップは病院でいうと「治療」です。

 こうして迎えた最終日は、5日間の練習の成果を検証し、生徒たちに達成感を味あわせます。その手段は、家族の前での試合発表会です(病院の退院前診察に相当)。わずか7日間の指導にもかかわらず、生徒たちの目の色が変わり、意欲的に練習するようになり、チーム内のコミュニケーションも活性化、雰囲気も明るくなります。試合では強豪チームを相手に勝利、もしくは善戦します。別人のようになった我が子を目の当たりにした保護者の目には、涙が光ります。

 この7日間のプログラムの最大のポイントは、初日におこなったチームの現状把握にあります。チームの「強み」「弱点」を正確に把握しないことには、有効な練習メニュー(治療方針)が作れないからです。

 私はコンサルを依頼されると最初に経営者にインタビューしますが、あまり現状把握にはなりません。従業員への願望や不満が多く、データの精度が低いからです。インタビューは、自社の実態を経営者がどの程度正確に把握できているかを知るための手段と考えています。

 クライアントの実態( 強み・弱点 )は、職場の5S状況と従業員の働く姿を見るだけで、ある程度把握できます。生徒が指導者の鏡なのと同様に、「従業員は経営者の鏡」「部下は上司の鏡」だからです。

 経営者(部課長)が、常日頃接している従業員(部下)の「弱点」に気づいていないはずがありません。ただしそれを認めてしまうと、そんな弱点を持つ人財を育成してしまった自分に矛先が向かうのを恐れているだけです。自分の責任を認める度量の欠如こそ、従業員(部下)の弱点を見て見ぬふりをする真の原因です。

 『奇跡のレッスン』シリーズの主役は一流コーチ(コンサルタント)と生徒(従業員・部下)で、指導者の先生(経営者・部課長)は脇役です。しかし一流コーチから一番学んだのは、脇役だった指導者です。自分のせいでパッとしなかったチームが、練習方法を変えただけで見違えるほど強くなったのを目の当たりにするんですからたまりません。試合や発表会では、嬉しさ・悔しさ・恥ずかしさの入り混じった複雑な心境だったことでしょう。

 一流コーチは指導者に①チーム(指導者)の弱点を素直に認めることの価値 ②弱点を克服する練習方法、の2つを伝授しました。これはコンサルタントがクライアントで行うことと全く同じです。『奇跡のレッスン』シリーズを12本見る過程で、私が気づいたことは以上です。皆さんのご参考になれば幸いです。

 あなたは自社( 自部署 )の「弱点」にお気づきですか?

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