⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第51号

あなたは『指先』を自分に向けていますか?

  私はセミナー冒頭で受講者の皆さんにいくつか質問をし、挙手で答えてもらっています。その中に「御社では改善提案活動を行っていますか?」というものがあり、実施率は概ね7~8割といったところです。意外にまだやっているんだなぁ、と思っています。

 しかし、その実態はどうでしょうか? 改善提案活動が活発で成果が上がっている会社は、その内どのくらいの割合なのでしょうか?「改善提案活動が活発に行われている会社の方は手を上げてください」と受講者に続けてと聞くと、上げていた手がサッと下がり、皆さんバツの悪そうな顔でニヤニヤされているので、実態は「推して知るべし」なのでしょうね。

 私が総務部員時代に改善提案活動事務局をやっていた頃は慢性的に過重労働が続いたため、最小限の時間でまさしく「事務的」に同業務を行っていました(集計して賞金を払っておしまい)。「改善提案活動はQCサークル事務局が兼務すべき」と主張し、同業務を品質管理グループに移管するほど「やる気」がありませんでした。

 そんな私が過労で倒れた後、異動した先がなぜかしら品質管理グループで、待っていた仕事がQCサークル事務局と改善提案活動事務局でした。皮肉なものです(苦笑)。

  さて「今度は本気でやろう!!」と思い、改めて改善提案活動の実態を調べると、それはひどいものでした。1年間に1人2件提出がノルマでしたが半数以上の人(および部署)が提出件数0件で、よくよく調べるとたった2人の提案数が全数の8割を占めている有様でした(社員数450人)。簡単に言うと、社員も職制もほとんどやる気なしということです。経営者もまるっきり関心がありませんでした。

  誰もやる気のない改善活動の事務局ほどみじめなものはありません。そんな時、皆さんならどうするでしょう? 私が最初に行ったのは『改善提案活動規格』に規定されている「年間提出件数1人2件」を盾に取り、各職制のフォローアップでした。その結果、事態はほとんど改善されませんでした。

  途方に暮れていた私はある日、気晴らしに茨城県経営品質協議会主催の講演会に行きました。そこで組織風土改革の第一人者である大久保寛司氏の話を聞くことが出来ました。同氏は「私はいろんな会社に呼ばれていくのですが、上手くいっていない改善(改革)活動事務局の人は決まって「私は一所懸命やっているのですが、○○が~~」と他人を非難しています。私はそういう人にいつもこう言うんです。「○○に改善(改革)活動をやる気にさせられない、事務局であるあなた自身になにか問題はないのですか? ○○に向けているその指を、一度ご自身に向けて反省してみてはどうですか?

 この話に私は衝撃を受けました。まさしく私のためにしてくれたような話だったからです。「今まで自分は事務局として、改善提案活動を従業員が心からやりたい活動にする方法を考えてみたことがあっただろうか?」「会社が支払った賞金に見合うだけの成果を、この活動から上げたのだろうか?」等々、自問する日々が続きました。

  何か参考になる事例はないかとネットや書籍を探しましたが、この分野は研究する人がいないのか、これといったものは見つかりませんでした(唯一本気で取り組んでいるのが日本HR協会の東澤文二氏だけでした)。当時、日本IE協会が改善提案活動が盛んな事業所を工場見学会で取り上げることがあったので、2箇所見てきました。また未来工業(株)も別途見学に行きました。

  その結果分かったことは「改善提案活動が盛んな会社は、社長(経営者)が同活動に熱心な会社である」ということでした。これではわが社の改善提案活動は当分の間活性化する見込みなし、ということです。そこで私は覚悟を決めました。経営者(事業所長)のバックアップには期待せず、事務局としてやれるだけやってやろう!! と。

  まず、提出された案件のすべてに目を通すと次のことが分かりました。ほとんどが「提案」で「実施済(報告)」のものがあまりありません。現場に赴き、追跡調査をすると、提案後の実施率も芳しくありません。よくよく見ると実施困難(不可能)な「提案」も結構あります。たかが1件200円とはいえ、会社業績にビタ一文貢献していない案件に賞金を支払っている自分の行為は「経営に対する犯罪」なのでは? との自責の念に駆られました。

  そこで思い切って改善「提案」活動から、改善「報告」活動に制度を変更しました。また年間2件/人の提出ノルマも廃止しました。こうして改善を本当にやりたい人からしか提出されない状況に自分(事務局)を追い込みました。

  さて、一体どうしたら従業員は自ら改善を実施してくれるのでしょうか? 私の決論は「改善の楽しさを実感してもらう」「改善しなきゃ損、という雰囲気を作る」というものでした。そのために私が実施したことは次の通りです。

  1. 初めて改善報告シートを提出した人のところに出向き、提出者とコミュニケーションをとり、改善内容を絶賛してくる。その際、きれいな封筒に入れた『改善のECRS』(A4版・パウチ済)を教育資料として手渡す。
  2. 2回目に提出した人のところに出向き『改善の12定石』を手渡してくる。
  3. 3回目に提出した人のところに出向き『改善の定石 一覧表』(A3版)を
    手渡してくる。
  4. 各職場の休憩室に『改善報告事例集』を設置、模範的な改善報告事例
    を横展開する。
  5. 毎月発行する『改善ニュース』で優秀な事例をカラー写真で紹介すると
    同時に、実施者の名前を全社に周知する。
  6. 毎月開催される事業所全体朝礼の席上で、優れた改善の実施者を事
    業所長から直々に表彰してもらう。

 ここで注目してもらいたいのは、改善教育資料を作成しているが改善実施者に段階的に配るだけで、全社員には配布していない点です。簡単に言うと「改善しない人を当事務局は相手にしません」というわけです。しかも改善実施者は事務局にベタ褒めされます(笑)。おまけに500円~7,000円(改善効果による)の賞金ももらえます。なんだか「やらないと損」な気持ちに皆さんもなりませんか?

  改善教育資料作成の他、『改善報告シート』の書式も改訂しました。他部署の人でも改善内容を理解できるように「改善前」「改善後」だった書式を「現状」「問題点」「改善」「効果」としました(その結果、書く方も楽になりました)。また改善効果をすべて金額換算できるようにしました。このことは改善実施者に達成感を与えると同時に、客観的に評価できるため採点する職制の負担も軽減しました。

  これだけ事務局が頑張れば、天が見放すわけがありません(笑)。最初は2、3部署でしか活性化しなかった同活動も、半年後には新入社員、派遣社員、シルバー人材の方、事務員、果ては出入りの工事業者の方からも提出が相次ぐ真の「やりたい活動」となりました。

 このように事務局である私が心を入れ替えただけで、随分と色々なことが出来ました。『改善提案活動』という形骸化した活動をよみがえらせることによって従業員に達成感と自信を、会社に利益をもたらしました。また職場風土を大きく改善することにも成功しました。人間、諦めないことが肝心ですね。

 今回は『改善提案活動の業務改革』という、世間的にはあまり日の当たらない事例を紹介しました(詳細は添付『改善提案制度改革の概要』をご覧ください)。この事例から私が学んだ教訓は「自分(事務局)が変われば他人(社員・会社)は変わる」逆に言うと「自分も変わらないで他人が変わるか!!」でした。

 あなたは『指先』を自分に向けていますか?

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