⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第140号

あなたは「DXに乗り遅れる恐ろしさ」にお気づきですか?

 昭和33年に学卒でメーカーに就職した私の父( 故人 )は、ある時一念発起し好きな酒も断ち書斎にこもり勉強を始めました。5年後晴れて工学博士号を取得すると、喜んだ母は水戸市の老舗フランス料理店で慰労会を催しました。店内はふかふかの赤いじゅうたんが敷き詰められおり、配膳の合間にウェイターがグランドピアノでBGMを演奏してくれました。この店で散財した後、一家心中でもするのでは?と心配した記憶があります(苦笑)。

 レストランに行く前、「真也も将来お父さんみたいに立派な人になるように、本を買ってあげるわ!!」という母に連れられて、地上5階建て、地下1階の巨大書店へ行きました。ビル一棟まるごと本屋の巨大書店は、まさしく『知の殿堂』に見えました。

 児童書のフロアで好きな本を選べと言われた私が1時間後に見つけた本は『発明・発見の話し』でした。同書は世界史に残る大発見や大発明について、イラストを多用して子供にも分かりやすく書かれた本で、以後私の愛読書となり、高校卒業まで本棚にありました。

 その一節に「鉄製の船はどのようにして生まれたのか?」という、子供にとっていささか魅力の乏しいテーマの見開き2ページがありました。その概要は次の通りです。

① 従来大きな船はすべて木造だったが、ある時鉄製の方が木造より軽くて丈夫に作れることが分かった。
② 仕事を奪われることを恐れた船大工たちは、「水より比重の重い鉄で作った船が水に浮くはずがない!!」とデマを流したり、造船所を襲い破壊したりした。
③ そのような妨害工作も空しく、木造に比べ圧倒的に優秀な鉄製の船は瞬く間に市場を席捲した。

 この本が刊行されて半世紀がたった今日、釣り船等の小型船舶でも木造船はグラスファイバー船に換わり、現在木造船を見ることは稀となりました。

 ところで皆さんは、現在ビジネス界でこれらと同様の事象が起きていることにお気づきでしょうか? それは「DX推進派」vs「抵抗勢力」のバトルです。「DX推進派」が鉄製の船を製造する「造船所」、「抵抗勢力」が木造船に固執する「船大工」です。そう考えれば、この勝負は初めから勝敗が決していることに気づきます。というより、ジェット戦闘機vsプロペラ戦闘機のように、そもそも次元が違うので勝負にすらなりません。

 数年後DXブームが去ったころ、勝者と敗者の差は歴然とします。DXによって業務生産性を向上し高収益体質となった会社の陰で、従来のやり方に固執した会社は低生産性のままで低収益に苦しみ、事業の存続すら危うい状態となることでしょう。

 そんな会社の将来を左右する「DX」なのに、日本企業の実に95%が未着手なのは一体なぜでしょうか?

 その理由は①DXには莫大な経営資源を要する ②経営者がDXをよく理解していない( orしたくない )という理由の他に、③20年前のERPブームの時に導入に失敗した( 同じ失敗を繰り返したくない )があるからです。試しにネットで「DX 失敗」で検索してみてください。数多くのセミナーがヒットするはずです。これこそ、ERP導入に失敗した会社がいかに多いかの証明です。

 かくいう私も前職でERP導入業務に携わり、見事に失敗した一人です。ですから、DXに躊躇(ちゅうちょ)する経営者のお気持ちはよく理解できますし、決して他人事ではありません。少々長くなりますが、前職(および親会社)がERPの導入に失敗した経緯についてお話しします。

① 親会社は新製品の大ヒットにより過去最高収益を上げ、新工場を建設する。しかし翌年以降の注文がすべてキャンセルとなり、新工場は一度も稼働することなく廃却処分、数百億円の損害が発生した(上場以来、初の赤字決算)。
② 業績を苦にした親会社社長がメンタル不全を発症し、辞任する(2年後に死去)。
③ 新社長は会社再生を賭け、現場はトヨタ生産方式(TPS)、事務所はERPの導入に挑むが双方とも失敗に終わる。結局5年間赤字を計上し、親会社から社長・経理部長を送り込まれる。
④ 従来より組織マネジメント不良という持病を抱えた親会社は、そのまた親会社から「自力更生の余地なし」と診断され、兄弟会社に吸収合併させられ57年続いた社名が消滅。

 装置産業である親会社が、組立産業の手法であるTPS導入を決めた理由は不明ですが、当時一大ブームを巻き起こしていたTPS( 当時は郵便局ですら導入し話題となりました )を過信したから、と私は考えています。厳しい言い方ですが、自分の頭で考える力がなかった、とも言えます。

 もう一つのERP導入はシステムベンダーの主導の下、実施されました。形だけのアンケート調査、キックオフを経て、業務一貫システム導入と生産管理の電子化が実施されました。その際の事務局の強引さに現場が反発し、続けて実施予定だった作業記録の電子化は見送られました。事態が沈静化した2年後、「角川はなぜかしら現場に言うことを聞かせる力がある(by 副工場長K氏談)」という理由で、私が担当者に選ばれました。

 ベンダーの提示するシステムを見てその「重さ」に気づいた私は、必要性の薄い項目をすべて削除し、記録項目数を必要最小限にしました。その上で組長と全作業者に説明会を開催し、システムの操作方法を経験してもらいました。その程度では定着しないと思い、昼間だけでなく深夜も現場を巡回し、3ヶ月間作業者に指導を継続しました。しかしその努力も空しくこのプロジェクトは失敗し、作業記録は記録用紙記入方式へと戻りました。

 その理由は後日受講したERP推進の第一人者山口俊之先生のセミナーで分かりました。「通産省と組んでERPを推進した私には「導入に失敗したから見てくれ」という依頼がよくあります」 「ERPに限らずシステム全般に言えることですが、現場作業者や監督者、技術員がシステム導入によって明らかに楽になったという実感がない限り、導入は必ず失敗します」「先日呼ばれた工場では、機械に自動計測機を設置する費用を惜しんだばかりに、高額なERPが使われなくなりました」 「いいですか? PCのキーボードを叩くだけで測定データが入力できるようにしなければダメですよ!!」「作業記録だけ電子化して、作業者には相変わらずノギスで製品の外径を測らせようとしているセコい会社には、ERP導入はお勧めしません」

 前職および親会社がERP導入に失敗した理由は、まさしくこれでした。後日、親会社の組長室を訪問し、作業記録の電子化の実態を調査した時の話です。そこには 『ERPの女神様』 と称されるパートの女性がおり、現場から回収した前日の作業記録用紙に記載されたデータをPCにひたすら入力しておりました( 本来は現場作業者がその場で直接PCに入力する)。その実態を現認した私は、思わず膝から崩れ落ちそうになりました。親会社が社名消滅したのはその5年後のことです。

 今振り返ると、前職でのERP導入失敗理由はもう一つありました。それは導入に際し、従業員の「同意」と「納得」を得る努力を怠ったことです。誘導尋問( 出来レース )のような形だけのアンケート調査でだまされるほど、従業員はバカではありません。

 以上の理由により、過去にERP導入の失敗経験がある日本企業はDXという鉄製の船に乗り替えることをためらい、その95%がいまだに木造船に乗り続けているのです。本当にそれでいいのでしょうか?

 縁あって当メルマガをお読みいただいている皆様の会社が、一刻も早くDXにチャレンジされることを私は願ってやみません。我々に残されている時間は、もうそんなにはありません。くれぐれも「座して死を待つ」選択だけはしないでください。御社の未来はあなた(職位不問)の決断にかかっています。

 あなたは「DXに乗り遅れる恐ろしさ」にお気づきですか?

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