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メルマガ第91号

あなたは「100点」を目指していませんか?

 私は若いころ完璧主義者でした。特に大好きだった美術にその傾向が顕著で、与えられた課題に意欲的に取り組み、途中までは芸大卒の抽象画家の先生に「お前ら、角川の作品を見てみろ!! すごいものを描いているぞ!!」などとおだてられるのですが、筆を置くタイミングが分からずだんだんとおかしくなり、最後は先生に「あれっ? これ、本当にあの絵なのか? あの後で何が起きたんだ?」などと言われる始末でした(苦笑)。この傾向は版画、ポスター、彫刻等何にでも当てはまり、毎回100点を目指し奮闘努力するのですが、努力すればするほどなぜかしら凡作が出来上がるのでした。

 そんな私ですから完璧主義の方のお気持ちは、いやというほど分かります。自分が「これだ!!」と思えるもの以外を世に送り出すことが死ぬほど(死ぬより)辛いのですよね? しかし現実は厳しく、会社はあなたにそんな時間を与えてはくれません。その結果、いつの間にかエベレストより高かった志はどこかに消え去り、「設計ってのはな、しょせん妥協の産物なんだよ!! 分かるか、お前!!」などと部下に説教し、「○○課長のようには絶対なりたくないよなぁ…」などと影でささやかれる今日に至るわけです。

 ここで完璧主義の方に質問です。あなたの目指している「100点」とは、定量的なはっきりとしたゴールがあるものですか? ひょっとしてイメージだけだったりしませんか? この問いに対する答えは二つありますが、実はその両方に問題があると私は考えます。以下、それぞれの問題についてお話しします。

 まず「100点」が定量的に測定できる場合です。完璧主義の人の傾向として「全てに完璧を期す」というものがあります。努力さえすれば100点が取れる物ならば、何が何でも100点を取りに行ってしまうのです。そんなあなたにお伺いしします。その「100点」は本当に必要なものですか? 本当に顧客から要求されているのですか? ひょっとして、あなたの思い込みや、自己満足だったりしませんか?

 学校ならいざ知らず、世の中のたいていの事柄は「80点」くらい取れていれば大過なくいくものです。ここで問題なのは「100点」を目指すと、生産性が極端に落ちることです。ROI(投資利益率、wikipedia参照)が示す通り、80点でいいなら20時間で済むところ、100点を目指すと100時間かかります。ここがビジネスでは致命的なのです。はっきり言って、暇だから100点など目指せるのです。また、そんな設計者を管理している管理職も無能と言わざるを得ません。

 あれもこれも100点を目指すと時間が全然足りず、そうこうするうちに本来業務に支障を来すようになります。肝心の設計(業務)品質が落ちるのです。これでは一体何のための完璧主義なのでしょうか?

 また完璧主義の大きな問題として、人を幸せにしません。なぜなら完璧な人間など、この世には存在しないからです。私のようにはなからどう見ても完璧とは見えない人間はまだ幸せです。世間的に完璧に見え、また本人もそれを自覚し、奮闘努力によって「100点」を目指そうと悲劇が起きます。

 皆さんは山口真由子さんという方をご存知でしょうか? 現役合格した東大法学部を最優秀の成績で卒業後、大蔵省主計局に配属、その後弁護士になった、どこからもケチのつけようのないピカピカの経歴の才媛です。そんな彼女が自ら半生を振り返り、最後には涙を流す番組を見ました(YouTubeで「しくじり先生 山口真由子」)。お暇な時、どうぞ。人生について考えさせられますよ。

 『ストイック女子』を自認する彼女の失敗(結婚できない)の原因は、ストイックであること自体が目的化していることが原因と私は思います。通常は何かの目的を達成するための一手段としてストイック(禁欲的)な生活をするのですが、目的達成手段自体が目的化したところに彼女の悲劇の遠因を感じます。同様のケースとしてよく見聞きするのが、幸せになろうとして大金持ちになったものの、かえって不幸になった人です。

 よくよく考えたら、私の身内にも山口さんとそっくりな叔父(故人)がおりました。かの福田赳夫元首相を目標としており、東大を全優で卒業し大蔵省主計局入りするのが叔父の夢でした。東大の教養課程で1番になる等、着々と夢に向かってまい進していたのですが、ある科目で「優」を逃してしまい、夢が実現不能となった瞬間にメンタルが崩壊してしまいました。その後の叔父の人生は実にみじめなものでした。完璧主義とは、げに恐ろしいものなのです。以上2つの事例から学ぶべき教訓は、「幸せになりたかったら、一刻も早く完璧主義は捨てる」です。

 さて次は「100点」が定量的に測定できない場合です。最初の事例が「悲劇」なら、これはもう「喜劇」というレベルです。どこにいるのか分からない「幸せの青い鳥」を探して、補虫網を片手にあてもなく荒野を彷徨っている人の姿を脳裏に思い浮かべてください。しかもですよ、まだその「青い鳥」なるものが存在していれば救いはあるのですが、いるのかどうかすら定かでないというのですからこれは「喜劇」としか言いようがありません(と偉そうに書いてきましたが、冷静に考えると私の半生が正しくこれでした(笑))。

 私がその普及に人生を捧げている『組織マネジメントシステム(OMS)』も、はっきり言って「100点(ゴール)」はありません。例え超人的な奮闘努力の結果「もうこれ以上のものは作れない!!」というレベルのOMSを構築したとしても、3年後には「なんだ、随分とレベルが低いな、これは?」という点が必ず出てきます。その理由は、皆さんの組織マネジメント力が向上したからです。子供の時読んだ本を、大人になって読み返し、がっかりした経験はありませんか? それと同じことです。であればデータ精度等完璧を期すことは即刻諦め、いますぐOMSを構築し運用を開始すべきです。それこそがOMSを「完璧」に近づける一番の近道なのです!!

 ここまで言ってもまだ踏ん切りがつかない方のために、あと一つ誰もが知っている事例を紹介して終わります。皆さんの使用しているPCには基幹ソフト(OS)がインストールされていますよね。一番有名なのは米マイクロソフト社製のwindowsですが、先頃サポートの終了したwindows7を思い出してください。運用が終了する直前まで、『アップデート』という名の追加プログラムインストール要請がMS社から来ていませんでしたか?

 世界中で何億台も使用されているPCの基幹ソフトでこのレベルです。自動車やテレビと違い、コンピューターのソフトは実際に運用してみないと不具合が発見しづらく、かつ使用環境の変化への対応を随時求められるため、リリース時に完璧を期すことが無理かつ意味がありません。そのため、顧客を使って人体実験(品質保証)しているのが実態なのです。この事例から、皆さんが作成したOMSの完成度向上のため、延々と運用延期を繰り返す行為の無意味さをご理解いただければ幸いです。「60点でよい、すぐやれ!!」が正解であり、完璧なOMS構築の唯一の道でもあるのです。

 あなたは「100点」を目指していませんか?

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