⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第131号

あなたは「惰性」で仕事をしていませんか?

 6年前まで私は毎週土曜日、バレエのレッスンスタジオにいました。娘の送り迎えがあったからです。スタジオまで片道20分かかるので、そのままレッスン場の片隅で読書していました。そのかたわら、レッスン風景を眺めたものです。

 そんなある日、英国ロイヤル・バレエ団で22年間トップの座にいたレジェンド、吉田都さんのバレエレッスンをテレビで偶然見ました。ちょっと見ただけで、娘の先生とは教え方が全然違うことに気づきました( 翌週聞いたら先生も見たそうで、大変ショックを受けたそうです )。その道の第一人者は、何か違うものをお持ちなのでしょうね。

 ところで皆さんは、NHK BS1の人気ドキュメンタリー番組『奇跡のレッスン』をご存じでしょうか? 世界のトップアスリートや芸術家たちを輩出した指導者が、将来を担う日本国内の少年少女たちを1週間にわたって指導・特訓するもので、子供たちに技術向上のノウハウを教えるのみならず、心の変化までももたらす模様を放送している番組です。

 先日偶然 『奇跡のレッスン~和食を作る女子高生』 をYouTubeで視聴しました。タイトルには「女子高生」とありますが、実際は女子5名、男子5名の調理部( 福井県立美方高校)を、京都祇園の超一流料亭『菊乃井』の村田吉弘さん( 69歳 )が1週間指導するといった内容です。下記URLよりご視聴できます( 1時間33分 )。

 奇跡のレッスン~和食を作る女子高生jk – YouTube

 この動画の圧巻は、開始後27分からです。和食の本場京都で200年間定説とされた昆布出汁(だし)の取り方を、村田さんは実証試験で覆しました。「20~30分間かけて沸点まで温度を上げる」が定説でしたが、実際は「65度のお湯に1時間昆布を浸す」方がいい出汁が取れたのです!! 伝統( 師匠・先輩の教え )を忠実に守ることが重視される和食の世界では、まさに革命的な出来事でした。

 村田さんは「伝統を守るとは、常に新しいことに挑戦し続けることです」と語ります。 師匠や先輩から教わったことを鵜呑みにしてその通りにやるだけの板前と、村田さんの決定的な違いはここにありました。だからこそ今日その業績が評価され、2018年に料理人として初めて文化功労者に選ばれるに至りました。「自分の頭で考えること」を最重視する村田さんは、次のように喝破しています。「考えることが、料理を創ることである

 明治維新以降、欧米列強に追いつくことが至上命題だった日本の教育に決定的に欠けているのが、この「自分の頭で考えること」です。学習効率だけを考えた場合、時間がかかり成果も定かではない「自分の頭で考える教育」より、「欧米の模倣をする教育」を日本は選択しました。

 しかし、この選択肢には大きな欠陥がありました。目標とする欧米と肩を並べることは出来ても、欧米を追い越すことは決してできないのです。日本式教育では世界をリードする人財は生まれません。才能のある人は日本式教育に見切りをつけて、皆欧米の大学に行ってしまいます。ノーベル賞受賞者がほぼ全員、留学経験者であるのもそれが理由です。

 高校生の作った料理を食べた村田さんは、生徒が自分の頭で考えていないことを一瞬で見抜きます。そして「柿( 旨味成分ゼロ )で新しい料理を作れ」という難題を出し、生徒たちを自力で考えざるを得ない状況に追い込みます。苦悩する生徒たちに村田さんがかけた言葉は「料理を考えるプロセスを楽しめよ」でした。

 すい星のごとく現れた藤井四冠王の活躍で盛り上がる将棋の世界には「義務感や使命感で将棋を指している人は、楽しんで指している人には勝てない」と言う言葉があります。「この一局にもし負けたら…」などと考えている人は指し手が伸びず、消去法で手を選んでしまいます。

 それに対し楽しむ境地に至った人は、「こんな手もあるなぁ」 「こんな手を指したら、相手はさぞ驚くだろうなぁ(笑)」と考えています。命がけの局面で遊ぶことができるかどうかが、勝敗を分けるのです。なかなか大変な境地ですね。だからこそ、それが出来る人はごくごく限られるのでしょう。「料理」という勝負の世界で村田さんが頂点に立てたのも、それが出来たからに他なりません。

 生徒たちの料理を試食した後、村田さんはご自身の料理を振舞います。「何が出てくるのかな?」とワクワクしている彼らに供されたもの、それはなんと「白飯」でした。がっかりする生徒たちは、しぶしぶ白飯を口に運びます。その瞬間、彼らの目が大きく見開かれます「な、なんだ、この白飯は!! こんな旨いご飯は食べたことがないぞ!!」 お代わりの希望者が殺到し、あっという間にお釜は空になります。「白飯」というごくありきたりの物で生徒たちに「料理のあるべき姿」を提示した村田さん、やはりただ者ではありません。

 翌日、その白飯は福井さんのお米と水で作ったことを明かします。水を採取した小川に生徒を連れて行き、飲ませます。「これは天下の名水やで」の一言に、今まで郷土に誇りを持てなかった生徒たちの顔色が明るくなりました。

 村田さんは「食べた人が感動し、一生心に残る料理を作ること」という非常に高い目標を掲げ、日々精進を怠りません。その姿はもはや料理人の範疇に収まらず、前人未到の荒野に挑む求道者と言えます。人生の目標は高ければ高いほどその人の成長を促すことを、身を持って実証された方と言えます。

 レッスン最後の課題「家族を泣かせる料理を作れ」で、生徒を極限状況に追い込む村田さん。そうして迎えた試食会当日、必死の力で考え抜かれた入魂の料理と、達人に鍛えられわずか1週間で見違えるように成長した我が子の姿に親御さんが次々と泣き出し、生徒ももらい泣きする美しい光景が映されます。生徒の一生を変えるほどの達成感を味あわせた村田さんは、教育者としても超一流です。

 最後に「10年後に私の前に立っても恥ずかしくない料理人になれたら、私のところを訪ねてこい。そうでなかったら、来んでええ!!」と厳しい言葉で生徒を突き放す村田さん。しかし生徒たちは、その厳しさが愛情から発せられた言葉であることを理解し、微笑みつつも決意のまなざしで村田さんを見返します。この青春ドラマのようなシーンを見て、将来和食界を背負って立つ逸材が、この10人の生徒の中から出現することを確信しました。

 人財育成にお悩みの経営者や社員教育担当者、部下をお持ちの方、上司に不満のある方は必見の動画です。

 以上、私がこの動画から学んだことをまとめると次の通りです。

① 師匠・先輩から教わった通りにやるのではなく、教わったことを疑い自分の頭で考えろ。
② 部下には仕事を教えるな。自分で考えさせろ( 考えるしかない状況に部下を追い込め )。
③ 大きく成長したければ、高い目標を掲げよ。
④ 仕事の目的は人を感動させること。
⑤ 必死に考えたものは人の心の「琴線」に触れ、感動させることができる。

  以上を一言でまとめると、「惰性で仕事をするなよ!!( =楽しようと思うなよ!! )」というが和食界の至宝 村田吉弘さんの教えです。

 あなたは「惰性」で仕事をしていませんか?

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