⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第121号

あなたは「従業員の「本音」を知らない恐ろしさ」を認識していますか?

 私が業務提携している新進気鋭の中小企業診断士E先生から、先日立て続けに3本のメールが届きました。何事かと思い読んでみると、クライアントであるイベント会社について私の意見を求める内容でした。このイベント会社の事例については、1年前のメルマガ(第97号「それでも御社はリストラを断行しますか?(2020年7月21日配信)」でご紹介しました。
その概要は次の通りです。

① コロナ禍により某イベント会社(従業員数50名)の受注が全て消滅、4ヶ月間売上ゼロの経営危機に陥った。
② その対策としてリストラ(2名)と追加融資(3億円)を実施するも、次の一手が思いつかずE先生に相談する。
③ E先生より依頼を受けた私が同社の幹部会議に出席、従業員アンケートの実施を提案し採択される。

 追加融資で余命が半年に伸びた同社は、E先生のおかげでさらに緊急融資を受けることに成功しました。それで一安心したか社長(47歳)が突然体調を崩し、長期間入院してしまいました。融資決定までの間、心労がよほど溜まっていたのでしょう。

 社長不在となった同社は、No.2のA常務が指揮を執ることとなりました。ところがこのA常務が従業員アンケート実施になぜかしら消極的なのです。「幹部会議で社長決裁が出たのですから、一刻も早くやりましょう!!」 「このままでは優秀な社員から順に、会社を辞めていってしまいますよ!!」 とのE先生の懸命な説得にも、のらりくらりと話題をそらし、耳を貸そうとしません。

 業を煮やしたE先生は私に意見を求めてきましたが、メールに記されたA常務の言葉は何回読んでも意味不明で、E先生の苦悩がよく分かりました。仮にも同社No.2で、西日本全域を担当する関西支社長のA常務がバカであるはずはありません。しかしその言動は全く持って意味不明です。みなさんは、この事態をどのように解釈されますか? 一晩考えた私の出した結論は、次の通りでした。

① A常務は私の提案した『第三者機関による無記名式従業員アンケート』の実施を嫌がっており、できれば実施したくないようである。
② その理由は、A常務ご本人に「従業員から自分が告発されるのでは?」との恐怖があるからと思われる。
③ その恐怖がある理由は、A常務ご本人の素行に問題がある(パワハラ、セクハラ、業務上横領etc.)からではないか?と推測される。

 以上3点を翌朝E先生にメールで送ったところ、すぐに返事がきました。「いままで抱えていたモヤモヤが一気に解消しました!! 私も角川先生の推測にまったく同感です!!」

 折り返しE先生に電話すると、「前からA常務については悩んでいたんですよ…」 「社長室で社長と話すとき、呼んでもいないのに同席するんですよ」 「それについて社長に意見すると、「あいつは俺の片腕なんだ、勘弁してやってくれ」なんて及び腰なんですよ」 「社長が倒れたのをいいことに、私が提案している業務改革案も骨抜きにしようとするし…」 等々、憤懣(ふんまん)やる方ないご様子でした。

 そこで私はこう言いました。「E先生、私は35年前に今回のクライアントと同じイベント会場設営会社で働いた経験があります」 「その現場は、イベント職人ともいうべき方が仕切っていました」 「腕のいい職人に限って態度は横柄で、口のきき方も乱暴なことが多いです」 「特に納期厳守が求められるイベント会場設営現場は、いわゆる「無理偏にゲンコツ」の世界です」 「そんな世界で腕一つで会社のNo.2までのし上がったA常務のことです、関西支社は彼の王国と化しているのではないでしょうか?」

 「そういえば、一度だけ関西支社に行ったことがありますが、事務所が異様に静かでスタッフに活気がありませんでした」 「今考えると、従業員は全員目が死んでいたように思います」 「分かりました、角川先生!! A常務こそ、このクライアントのガンなのですね!!」 「アンケートで従業員の口からこのことを言わせ、社長にA常務を切ってもらわないことには、何をやってもうまくいくわけないですよね!!」 E先生はさすがにものごとの理解が早く、的確です。私の言おうとしたことを、すべてご自身の口から言ってくれました。

 さて、この会社のその後です。なんとか体調を取り戻し、久々に出社した社長とE先生は社外でこっそりと会談し、全社で従業員アンケートを実施することを決めました。もちろん、A常務には内緒です。アンケート実施日にA常務は社長命令で、ラスベガスのイべント会場におりました(笑)。

 一堂に会した関西支社の社員を前に、社長は「いままで君たちを放ったらかしにして申し訳なかった」「この会社に対する君たちの不平・不満を、ぜひ聞かせてくれ」 「アンケートは無記名式だし、回答はここにいるE先生が直接受け取り、私の目には一切触れないようにしてある」 「だから安心して君たちの「本音」を聞かせてくれ」 「もしよかったら「会社をこう変えてほしい!!」といった提言も聞かせてくれるとありがたい」

 社長の心からのお願いが同支社22名の心に届いたのでしょう、その「本音」が見事に把握できました。回答を集計したところ、予想通りA常務の強権的支配に対する苦情のオンパレードでした。私は集計結果を分析し対策案を提示した報告書をまとめ、E先生に送りました。

 数日後、E先生からメールが届きました。「報告書を読んだ社長は、僕の前で泣いていました」 「Aに任せたばかりに、関西支社の社員がこんなにつらい思いをして働いていたなんて…」 「よくよく考えれば、Aを常務にしたことがそもそもの間違いだったんだ」 「Aはあくまで職人で、組織のマネジメントなんかできる器じゃなかったんだ」 「それを俺が常務に登用したばかりに、Aをダメにしてしまった」 「その張本人はこの俺だ!!」 その後社長はA常務に心からお詫びした上で、増額した慰労金を支払い、次の職場を紹介した上で解任しました。

 A常務が関西支社を去った翌日、社長に同行したE先生が目にしたものは、以前とは打って変わっていきいきとした社員たちの姿でした。社長に近寄ってきて「会社存続のためなら、なんでもやりますよ!!」 「昨日は飛び込み営業してきました、いまどき!!」 「バーチャル展示会の企画があるのですが、お時間をいただけないでしょうか?」等々、口々に話しかけてきたそうです。「「本気」になった従業員ってすごいですね!!」 「たかがアンケートで従業員がここまで変わるとは、私も思っていませんでした」 「今回は角川先生を少し見直しましたよ(笑)」とはE先生のご感想です。

 今回このイベント会社の社長さんが学んだことは「従業員の本音を知らない恐ろしさ」でした。「失われた30年」により、業績が長期にわたり低迷を続けるイベント業界では慢性的求人難により、人材の流動性が損なわれています。会社に不満があっても、行くところがないので我慢してその会社に居続ける社員が多いのです。従業員の「定着率が良い=満足度が高い」ではない、ということです。この事実を知り、謙虚に受け入れることから同社の業務改革(業態転換)プロジェクトはスタートしました。社長・従業員そしてE先生のベクトルがぴったりと一致したプロジェクトです、大概の困難は乗り越えて成功するに違いありません。この事例を知ったあなたが同社に続くことを、私は心の底から願っています。

 あなたは「従業員の本音を知らない恐ろしさ」を認識していますか?

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