⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第113号

あなたは「強み」「弱み」を正しく認識していますか?

 コロナ禍で県外での仕事を失った私の新規事業、地元の中小・零細・個人事業主の支援事業のクライアントである某料理教室の問題点は、現地視察と先生へのヒアリング調査の結果、下記の3点であることが分かりました。

① 整理整頓不良で教室内に物があふれ、雑然としている(清潔感ゼロ)。
② 授業時間が長すぎる(4~5時間)。
③ 受講者のレベルとニーズに応じたクラス編成がなされていない。

 上記を説明し対策を提示、改善計画を立案し、進捗管理方法も指導しました。しかしB先生(女性・68歳)は、この問題点をどうしても受け入れてくれません。しまいには「角川先生は料理教室を経営されたご経験があるんですか?」などと反論してくる始末です。

 私はコンサルタントとは、特定分野の「お医者さん」だと思っています。たとえどんな名医だとしても患者(クライアント)が不信感を持ち、その診断を信用せず、治療を受け入れないのであれば、患者を助けることはできません。私が医者なら「私の診断がご不満でしたら、どうぞ他の病院にいらしてください」と言ってB先生への指導を断念するところです。しかし私はそうせず、満を持して『伝家の宝刀』を抜きました。24名いる生徒さん全員に対し、無記名式受講者アンケートを実施したのです。

  返信用封筒の宛先(私の住所・氏名)をB先生が直筆で書いた効果も相まってか、アンケート回収率はなんと100%でした。何の見返り (粗品・商品券等)もなしでこの回収率は驚異的です。そのうえ自由筆記回答のボリューム・内容とも私の当初の想定をはるかに上回るものでした。回答用紙(A4版)の裏面にまでびっしりと書いてくれた人が3名もおりました。またその内容も私の仮説(3つの問題点) を実証するに十分なものでした。

 さっそくアンケート結果報告書をまとめ、B先生にメール送信したところ、翌日B先生が電話をかけてきました。いつもの元気はどこへやら、すっかり意気消沈した声で「もうダメです。すっかり心が折れました。今後教室経営を続ける気力がなくなりましたので、ご指導は次回で最後にしてください」とのことでした。

 人間は心が折れたらお終いです。そこでコンサル冒頭で、アンケート調査実施により会社存続の危機を乗り越えた事例2件を紹介しました。事例の内容より、a.アンケート集計結果を手渡した時の経営者の反応、b.その後の対応、c.危機を乗り越えた後の現状、の3点を中心にお話ししました。

 事例1の美容室 (従業員数7名) は10年間で20名が辞め、私に依頼が来ました。美容師の本音に初めて直面した経営者の顔がみるみる内に蒼白になり、報告書を持つ手の震えが止まりませんでした。しかし一晩で立ち直り、翌日から全員と個別面談を行い、対策を実施しました。その結果、新採の2名は無事定着し、現在では娘さんに事業を譲り、お孫さんと遊んで暮らしています。

 事例2の施工管理会社(従業員数10名、社長70歳)は、後継者の長男が退職し事業承継に失敗、取引先への会社売却も断られ、私に依頼が来ました。赤裸々で刺激的な従業員の「本音」を、創業28年目にして初めて知った社長ご夫妻の動揺・落胆ぶりはひどく、ひょっとしたら「次回からはもう結構です」と言われるのでは、と思ったほどです。

 しかし気持ちを切り替えて、アンケートで明らかとなった同社の課題 (業務の「見える化」度ゼロ)に立ち向かいました。社長や奥様(管理部長)の業務も含め、全業務のマニュアル化に全員で取り組んだ結果、わずか3ヵ月でお二人の業務を社員に移管することに成功、夫婦そろって退任されました。その3ヵ月後、社長はガンにより死去しましたが会社は無事存続し、創業30年目にして初めて支社を新設する躍進ぶりです。

 最後に私の受講者アンケートも見せました。「上から目線」 「態度が偉そう」「内容が薄い」 「他のセミナーの営業臭がする」等々の厳しいご意見にはB先生も「角川先生もご苦労されているのですね」と同情してくれました(苦笑)。

 訪問した際は半病人のようだったB先生の顔色に生気が戻ったことを確認した上で、午後からいよいよ料理教室の生徒さんから寄せられた「本音」について丁寧に解説しました。いままでずっと受け入れ拒否してきた教室の3つの課題(汚い・長い・レべルが高い) を私の口からではなく、顧客である生徒さんの口から聞き、なおかつそれらを統計処理した数値データを前に、さしものB先生も受け入れざるを得なかったのでしょう。医者の問診結果を信用しなかった患者も、精密検査のデータを前に、ついに入院・治療を決意したのでした。

 しかし今回のアンケートの成果は、当初予定していた「仮説の検証」で終わりませんでした。長年雑然とした教室で、いつ終わるとも知れぬ長い授業に耐え忍んできた生徒さんばかりなので、先生に対する思いが尋常ではなかったのです。辛辣な意見の裏側には、B先生への深い敬意と愛情が確認できました。

 大学で民俗学を専攻されたB先生の日本文化に対する造詣は広く深く、他の料理教室の追随を許しません。「料理にまつわる歴史やエピソード、うんちくを学べるのが楽しみです」という生徒さんが80%以上いました。これこそB先生の「強み」だったのです。そこで、この「強み」を最大化する手段として私が提示したアイデアは「日本初!! 料理をしない料理教室」でした。時間は2時間で、①レシピ説明 ②料理にまつわる話 ③試食、という3部構成です。

 「食器と調理器具をもっと減らさないと、教室がきれいになりませんよ」という私の指導に対するB先生の反論は「生徒さん全員に料理を作ってもらうので、すべて人数分必要なんです!!」でした。しかし教室で実際に料理をしないのなら調理器具は先生一人分で十分ですし、調理後のお食事会も試食のみとすれば、食器だって劇的に減らすことが可能です。

 私のアイデアにB先生は「まったく気づきませんでした。ほとほと感心しました」と言ってくれました。次回から本格始動する5Sの成功は間違いありません。

 またこの教室は高級食材(常陸牛のA4、江戸崎のカボチャ等)を使用した手の込んだご馳走を教えていたのですが、生徒からは「ご馳走は自宅ではニーズがない。普通の食材で簡単に作れるものを教えてほしい」 との要望が複数寄せられていました。そこで思い出したのですが、毎回B先生が私にふるまってくださる昼食は20分程度でササッと作られ、それがまた実においしいのです。

 「B先生、いつも私に出してくれる料理の方が生徒さんのニーズが高いようですよ」と指摘すると「えっ、あんなものでいいんですか? あの程度のものだったら、いくらでもレシピがありますよ」とのことでした。B先生は、完全にご自身の「強み」と「弱み」を誤解していたのでした。本人にとっては「悲劇」ですが、他の料理教室経営者(競合他社)から見ると「喜劇」です。

 今回この料理教室の「強み」「弱み」を教えてくれたのは、顧客である生徒さんでした。私はその「本音」を引き出すお手伝いをしたにすぎません。職業柄、クライアントの「弱み」はすぐに気づくのですが、「強み」に関しては正直推測の域を出ません。日本人はあまり他人をほめないので、アンケートを実施しないことには自分 (自社・自部署) の良いところ(強み)は決して分かりません

 今回の事例でわかる通り、「弱み」を解消し「強み」を最大化すれば、競合他社に対し圧倒的優位に立つことができます。そのファーストステップこそ『無記名式アンケート』に他なりません。わずかな費用と手間でできるこの手法をやらない理由は「未知のものに対する恐怖心」だけです。ここで人間ドックを初めて受診した時の気持ちを思い出してください。結果報告書を見る時 「ひょっとしたら、どこかにガンでも見つかるのでは…」等、不安な気持ちになりませんでしたか?

 40年前、がんが不治の病だったころは本人に告知しないことがありました。しかしがんが治る病気となった昨今、よほどの高齢者以外は告知しています。治療法があるからです。それと同様に、アンケートで判明した御社の問題点に対する『薬』や『治療法』を私は持っており、その有効性も確認済みです。ですから恐れることはありません。安心してアンケートを実施してください。

 私に言わせれば、顧客や従業員の「本音」に直面することより、それらを知らないで経営していることの方が、会社にとってよほど恐ろしいことです。事例1の美容室社長は、アンケート実施前のご自身のことを 「経営者という名の裸の王様でした」 と自嘲しておりました。

 あなたは自社 (自部署) の「強み」 「弱み」を正しく認識していますか?

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