今回のメルマガでは、私のライフワークの一つである『戦争の研究』と『比較文化論』の視点から日本・日本人・日本企業の「強み」「弱み」についてお話ししたいと思います。ちょっと変わったアプローチですが、きっと皆さんのお仕事の参考になると思います。
有史以来世界の国々は、その存亡をかけて戦争に明け暮れてきました。戦争をしていない時は平和だったのかと言うとそれは大間違いで、「経済戦争」と言う名の銃弾の飛び交わない戦争を行っており、それは今日に至るまで綿々と続いています。
民間企業も同様に、世界中の同業他社と生き残りを賭けた熾烈な競争をしています。そういった意味では民間企業と国家はよく似ていると言えます。強い企業が強い国家と似ているのと同様に、弱い企業は弱い国家と良く似ています。国家が命懸けで戦う戦争を研究すると、今日も変わる事のない国家(および国民性)の「強み」と「弱み」がよく分かります。そしてそれらの「強み」「弱み」は、その国の企業の「強み」「弱み」に密接な関係があります。
いつにない格調高い(?)書き出しで、驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんね。ここからは、ぐっと卑近な内容(『私の自叙伝』風?)になりますので安心してお読みください。
私は茨城県日立市というところに15歳まで住んでいました。小学校は助川小学校という創立140年の歴史ある学校を卒業したのですが、今考えると日本の近現代史を象徴するような学校でした。もともと幕末に助川海防城があったところで戊辰戦争の古戦場だったため、校庭を造成する際戦死した武士の遺骨が沢山出てきたそうです。その後日立製作所が成長する中、同社が全国から集めた従業員の子弟を受け入れたため、全校生徒数4,200名、校舎数17棟というマンモス小学校となりました(当時運動会は、低・中・高学年毎に3日間かけて行ったとのことでした)。
昭和16年12月太平洋戦争に突入し、軍需産業の一大拠点だったためアメリカの攻撃対象となり、B29による空襲2回、戦艦・重巡洋艦による艦砲射撃1回と一地方都市にしては念入りに攻撃されました。近隣の日立製作所の工場が爆撃された際には、遺体を校庭に600体以上並べ、遺族が引き取りにいったそうです。その後の爆撃では、この小学校も焼夷弾を受け全焼しました。このように、なかなか血なまぐさい歴史を持った学校でした。
小学3年生の時の担任の先生が空襲で兄を亡くしており、授業の合間によく戦争の話をしてくれました。当時まだ純真な田舎の少年だった私は、先生の生々しい話に衝撃を受け、それ以来戦争の勉強をするようになりました。時代は昭和40年代末、近所には防空壕跡や艦砲射撃で空いた深い穴があり、休日に商店街へ行くと映画館の前には5人編成の傷痍軍人の楽団が演奏していました。おもちゃ屋には軍艦や戦車、軍用機のプラモデルが山のようにあり、小学生向けの月刊誌の特集記事が『戦艦大和の秘密』だったりしました。まだまだ『戦後』は続いていたのですね。
私の戦争の勉強は、最初は兵器(軍艦・軍用機・戦車等)から入りました。日本海軍の戦艦や空母の名前と仕様、戦闘機の搭載機銃の口径と搭載数などを暗記しました。その後、個々の戦いに興味を持つようになりました。真珠湾攻撃や南太平洋海戦、マリアナ沖海戦等です。ミッドウェー海戦の惨敗を本で読むたび、悔しさで胸を熱くする軍国少年でした。
学年が進むにつれ、第二次世界大戦が始まるに至った歴史自体に関心を持つようになりました。子供の頭で考えても戦力と国力に大差のあったアメリカと戦争をするほど当時の日本の指導者が馬鹿だったとは思えなかったからです。色々な本を読んだ末たどり着いた私なりの結論は、後年小林よしのりさんの書かれた『戦争論』シリーズと概ね同じ結論でした。
それと並行して勉強していたのが比較文化論でした。これは幼い時から父親の英会話の練習相手として、外国人が家庭に結構出入りしていたことの影響と思われます。高校時代から、①外国人の目から見た日本論②日本人が海外で見聞したことについて書かれた本等を片っ端から読んだ記憶があります。この勉強をしすぎたせいか、私の結婚相手は外国人となりました(笑)。
さて、一見なんの関係もなさそうな『戦争』と『比較文化論』ですが、あるとき一冊の本で結びつきました。それが今回ご紹介する『日本人小失敗の研究』です(内容の詳細につきましては添付資料をご覧ください)。著者(三野正洋氏)の主張は「国家がその存亡をかけて戦う戦争に使用する兵器の設計思想には、その国の国民性が強く影響する」というものです。同書はちょっとしたベストセラーとなり、続編として『ドイツ軍小失敗の研究』『連合軍小失敗の研究』が発刊され、私は夢中になって読んだものです。シリーズを通読して分かった、列強各国の兵器の設計上の特徴は次の通りです。
①日本 | 顧客(軍部)の立場が異常に強く、無茶な要求に応ええざるを得ないため総花的な設計をしがち。人命軽視のため、安全性や居住性を犠牲にして性能向上を図ることが多い。また標準化の概念が弱く、製造に際して工数が掛かり値段も上がってしまう。顧客の際限のない仕様変更要求もネックとなっている。 |
②ドイツ | 革命的な兵器(ジェット機、巡航ミサイル・弾道ミサイル等)を次々と開発したが、とかく設計者が独走しがち。生産性や顧客(軍)のことをあまり考慮せず設計してしまうため、作りづらく安全性や使い勝手が悪いものがある。他国では試作段階と思えるものでも実戦に投入してしまう。 |
③アメリカ | 「兵器は性能より数が第一」という揺るぎなき信念のもと、多少の性能低下は割り切り生産性を重視した設計を行う。また敵の攻撃を受けた場合の安全性確保にも配慮がなされている。操作性も特に難点がないものが多い。 |
④ソビエト | その厳しい気候と広大な国土から、堅牢性・耐久性・信頼性を重視した設計を行う。その反面、操作性や居住性(戦車・潜水艦等)は犠牲になっている。また、攻撃力より防御力を優先する傾向がある。 |
⑤イギリス | 良くも悪くも設計に独特のこだわり(単発複座戦闘機等)がある。兵器そのものより周辺技術(レーダー等)の開発力が強い。また技術的に困難で他国が諦めてしまったものを粘り強く研究し、ついに実用化させることがある(木製飛行機や戦後の垂直離着陸機)。 |
どうでしょう。同じ用途で設計された兵器(例えば戦闘機)でも、各国それぞれの特徴が兵器の設計に色濃く反映しています。そしてその特徴は戦後70年経った今日でも、各国の兵器・工業製品等に連綿と引き継がれています。
ここで話を現代に戻します。現在日本国内にある自動車メーカーや家電メーカーで、上記①~⑤の特徴にあてはまるものはないですか?自動車評論家が「○○社らしい○○に配慮した(○○を重視した)設計」などと言っていることが、それにあたります。
また上記①~⑤をメーカーに当てはめる、次の通りです。( )内は、そのメーカー内で強い部署です。この視点から見ると、組織マネジメントにも各国の特徴がみられることに気付きます。
①日本 | 顧客の都合に振り回され、小ロット多品種生産を強いられているメーカー(製造) |
②ドイツ | 設計部門が突出して強く、先鋭的な製品を市場に投入するメーカー(設計) |
③アメリカ | 性能的には特に突出した点や難点のないものを、安く大量に作るメーカー(生産管理) |
④ソビエト | とにかく丈夫で壊れにくい製品を作るメーカー(品質保証) |
⑤イギリス | ここでしか作れない製品を持っているメーカー(設計) |
これらの特徴は、各メーカー内である部署が強く、またある部署が弱いことから発生します。皆さんの会社の属する業界の各社を、上記①~⑤の分類で整理してみると面白いかもしれません。そしてご自身の会社が①~⑤のどこに当てはまるかを考えた時、自社製品の設計上の特徴およびその特徴の原因となる組織の「強み」と「弱み」(○○部署が強くて○○部署が弱い)に気付くはずです。
御社はどの部署が強い会社ですか?
【参考図書】
当メルマガの内容に興味を持たれた方に、次の三野正洋氏の著作をご紹介します(amazonに古本の在庫有り)。いずれの本も一般向けに書かれており、私のような軍事オタクでなくても理解できます。