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メルマガ第119号

御社に「いかなる経営環境下でも利益を出す仕組み」はありますか?

 私の妻の趣味はガーデニングです。18年前に一軒家を建てたのも、マンションでは妻がガーデニングできないからでした。敷地外周に生け垣を作り、庭に芝生を貼り、駐車場を自作するところまでは私もやりましたがそこで力尽き、それ以降は庭仕事はすべて妻がやっています。

 休日の朝から晩まで嬉々としてガーデニングに精を出す妻の姿を見ては、その精勤ぶりに感心しておりました。妻の買ってくるガーデニング用品はアイリスオーヤマ製のものが多く、「ヒマならこれでも組み立てて!!」と命じられた、洒落たデザインの郵便受けも同社製品でした。

 同社の製品はホームセンターでよく見かけましたが、ガーデニング用品売場の他、収納家具、調理器具、照明、家電の各売場に点在しており、多種多様な製品群から正直何をしたい会社なのかよく分かりませんでした。

 そんな同社の会長である大山健太郎氏の講演を先日聞く機会がありました。そこで初めて長年の疑問が氷解しました。同社の経営方針は通常の製造業のプロダクトアウト(作ったものを売る)とは180度異なり、「顧客の求めるものはすべて作って提供する」というユーザーイン(マーケットインの極致)でした。

 同社は今回のコロナ禍で需要が急増したマスクの増産構築にいち早く成功し、経済紙(誌)で大きく報道されました。なぜなら、1~2割の増産ならなんとか対応できるメーカーは珍しくありませんが、5割増しの注文に対応できるメーカーは同社をおいて存在しないからです(通常は工場と物流がパンクします)。

 皆さんはなぜアイリスオーヤマだけが、この需要に対応できたか気になりませんか? 他社がみすみす見逃した商機(ビジネスチャンス)を、同社だけがつかみ大きな利益を上げることができた理由は「普段の心がけ」の違いでした。

 「チャンスをつかむことができるのは、チャンスをつかむ準備をした者だけである」という言葉の通り、同社は日ごろからその準備を行っていました。トヨタ生産方式で「あるべき姿」とされる稼働率100%を目指さず、70%に抑えていたのです!! 当然TPS流の工場に比べ数字は落ちます。それを承知の上で同社が稼働率を抑えていた理由は、突発需要を取り逃がしたくないからでした。

 この話を聞き、私は10年前に読んだ個人事業主向けの本の一節を思い出しました。そこには次のように書かれていました。「会社員時代の習性で、手帳にスケジュールを目いっぱい詰め込む個人事業主がよくいるが、そういった人の事業が成功することは稀である」「それではたまに来るチャンスをつかむことはできないからだ」「したがって経営者のスケジュールはスカスカが正しい」

 稼働率を70%に抑えてまで同社が「突発需要獲得」に執着した理由は、①利益率が高い ②高いシェア(市場占有率)を得られる、の2点です。皆さんはコロナ禍発生直後、街角でマスクの路上販売を見かけませんでしたか? ドラッグストアーの店頭から消えたマスクを求めて多くの人が群がる光景は、当時全国各地で目にしました。そしてその販売価格は販売者の「言い値」でした。

 ここがポイントなのですが、突発需要発生時は「買えるor買えない」が最重要となり、価格は二の次になります。つまり、販売者、生産者ともに平時ではありえない大きな利益が得られます。そして各社の増産体制が整ったころ、製品の市場価格は暴落します。また「突発需要獲得」に成功すると、平時ではありえない大きなシェア向上も可能です。市場独占も夢ではありません。

 「突発需要獲得」のメリットを熟知している同社は、平時から社内体制の整備に余念がありませんでした。その一つが、他社を圧倒する新製品開発のスビードです。製品をメーカーの言い値で売れる期間は非常に短いので、同社は次のような体制を構築しました。①全部署が集まる『プレゼン会議』席上で社長が即決する ②社長決裁と同時に全部署が並走して製品開発に取り組む

 普通のメーカーでは、新製品開発の決済が下りるのに数多くのプロセスを経ざるを得ず、大会社では通常数ヶ月、ひどい場合は数年かかります。各プロセスに存在感を誇示したがる御仁がいると差し戻しを命じたりして、担当者のモチベーションと時間の双方をロスします。

 同社は毎週開催されるプレゼン会議席上で即決です。しかもたとえ開発に失敗しても起案者はおとがめなし、成功すれば褒章があります。このシステムなら、担当者も失敗を恐れず挑戦する気になります。同社が恐れているのは、担当者が失敗を恐れるあまり画期的な新製品のプレゼンを躊躇することです。恐れるポイントが他社とは違うのです。

 このように普通なら「できれば起きてほしくない」と考える「想定外の事態(ピンチ)」について、同社は「社業を飛躍的に伸ばしてくれる絶好のチャンス」と考えます。そしてピンチをチャンスに変える準備をしています。これでは勝敗はやる前に決しています。

 この経営システムを構築された大山健太郎氏の学歴は高卒です。大学進学を志し受験勉強中だった同氏は、父親を亡くし進学を断念します。そして若干19歳で父親の残した従業員5名の零細企業の社長に就任します。母親と兄弟、そして従業員の運命が大山青年に委ねられます。

 普通に考えるとかなり厳しい状況ですが、大山青年は2つの武器でその運命を切り拓きます。ひとつは十代の若さ、もう一つは自分自身の頭で徹底的に考えることでした。大学で経営学を学ばなかったことが幸いし、自身で考えたことを自社で即実施する「トライ&エラー」の積み重ねにより、欧米流経営学(マネジメント手法)とは全く異なる大山流経営学を構築しました。

 私は従来より「奴隷制度や植民地支配から生み出された欧米流経営学(組織マネジメント手法)は、日本人には不向きである」と提唱しておりますが、この事例からより一層確信を深めることができました。一流大学でMBAを取得後に事業承継し、家具職人の父親が一代で築き上げた大会社をわずか2年でボロボロにした某女性社長の事例と大山氏の事例を対照すると、欧米流経営学に盲従する恐ろしさと自分自身の頭で考える大切さの双方に気づきます。

 人生の「ピンチ」を事業成功の「チャンス」に変えた大山氏の人生は、後に続く者にとって大きな励みとなることでしょう。

御社に「いかなる経営環境下でも利益を出す仕組み」はありますか?

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