世界最高レベルの生産性を誇る現場に比べ先進7ヶ国中最下位、OECD33ヶ国中22位の生産性に甘んじている事務所(ちなみに23位はかのギリシャです)ですが、その割にはこの国で事務所改革のニーズが高まっている様子が見られません。今回のメルマガでは、この「ナゾ」についてお話ししたいと思います。
大きな書店でビジネス書フロアの工場関係コーナーへ行くと、品質管理、生産改革、生産性向上、原価低減、5S等の現場改革に関する書籍は大量に目にします。その反面、私が専門とする事務所(間接)業務改革の本は、数冊あればいい方です。またビジネスセミナーの開催状況を見ても、現場改善・改革に関するものは月間百本以上開催されていますが、事務所関係のものは目にすること自体まれです。このこと1つをとってみても、この国で事務所改革のニーズが低いことは明らかです。
ちなみに某セミナー会社で開催された『事務所(間接)業務の「見える化」』セミナーで14名の方が参加していただいた際、セミナー会社社長から「角川先生、よくぞこのテーマで14名も受講者を集めてくれましたね」と握手されたことがあります(苦笑)。この道40年のプロであるこの社長さんの目からしても、「事務所業務改革」というテーマは売り物として魅力がないものと映ったようです(そんなテーマを選んでしまった角川コンサルの運命やいかに…)。
「このテーマのニーズは世間に聞いてみよう!!」と3年前に独立開業して以来、一貫して事務所改革・改善に関するセミナーを過去12回行っておりますが、工業系セミナー会社での開催にも関わらずありとあらゆる業種(製造業、商社、販社、病院、アミューズメント等)の方が全国津々浦々から参加してくださいました。また会社規模も30,000人超~50人、受講者の職位も社長、役員、部長、課長、主任、担当者とまちまちです(部課長さんが多い、とは言えます)。
私をこの業界に導いてくれた正木英昭先生(マサキ経営代表・現場5Sのスペシャリスト)に以前私のセミナーの受講者リストをお見せしたところ「角川さん、よくこれだけまとまりのない受講者を相手に講義できますねぇ」と感心(?)されたことがあります。しかし、このことこそ私の目に狂いがなかったことの確かな証拠と考えています。人数こそ少ないですが、事務所(間接)業務の実態に疑問を持っている方が存在しており、問題解決方法を必死に求めておられます。そうでなければ、一冊の本も書いていない無名講師(私のことです)のセミナーに来てくださるはずがないからです。
会合等で同業者(セミナー講師)とお話しする際によく話題になるのが「自分のセミナーをぶち壊したモンスター受講者」ですが、幸いにして私は今までお目にかかったことがありません。それどころか私のセミナー受講者の皆さんはとても熱心に聴講してくれ、想定外の質問に感心させられたことも一度や二度ではありません。受講者アンケートを読んで思わず目頭が熱くなったこともあります。そのくらい潜在ニーズがあるテーマなのに、なぜニーズが顕在化しないのでしょうか?
その理由として考えられるのが、事務所(間接部門)は現場(直接部門)の業務改善・改革を指導するところ、という認識が上げられます。俗にいう「私言う人、あなたやる人」です。事務所(間接部門)ははなから業務改革の対象外、という考え方ですね。人間、人に指を指すのは簡単ですが、自分自身にその指を向け反省することは至難の業です。私のセミナーに来られた方のレベルと意識が高いのは、この困難を乗り越えて来られるからだと思います。
もう一つの理由は、数値データで生産性が管理されている現場(直接部門)に比べて、事務所(間接部門)はそのような定量的な管理手法が導入されていないことが上げられます。「生産性」「コスト削減」といった縛りがあるため、必要最小限の人数で操業している現場に対し、事務所ではそもそも必要人員数が明確でないため、部下を一人でも多く持ちたい中間管理職の習性(?)もあって、常に人員はだぶつきがちとなります。
さらに罪深いことに、部下一人1人の業務負荷も定量的にコントロールできないため、毎日定時退勤で有給休暇を消化するスタッフと、月300時間も残業・休日出勤を強いられ死にかけているスタッフ(かつての私です)が同一部署内で発生する始末です。
このような事態発生の根本原因は一体何なのでしょうか?「事務所(間接)業務の実態が定量的に「見える化」されていないため」ことがその原因である、と私は考えます。①部署の業務遂行に必要な総時間数(必要工数)②部署スタッフの総労働時間(投入工数)③スタッフ毎の労働時間、この3つのデータが「見える化」されない限り、御社でも以前のメルマガでご紹介した過重労働による①メンタル不全者(総務部長)②健康障がい者(角川本人)③業務品質低下による不測の事態(設計部長)、の3つがいつ発生してもおかしくありません。
話は変わりますが、昨年の『ビジネス書大賞』を受賞した本で『統計学が最強の学問である』という本があります。また少し古い本ですが『世界がもし100人の村だったら』という本もお薦めです。両書を読むと、「よく出来た統計は人の考えと行動を変える」ということが実感できるはずです。
そこで今回のメルマガの結論ですが、この国の事務所(間接)業務の生産性が低いのも、業務改革の必要性の認識が薄いのも、その原因は事務所(間接)業務の実態を「見える化」する統計がないことに尽きます。それさえあれば部署の問題点が明確となり、何かしら手が打てます。そうなれば同じ日本人がやっているんですから事務所の生産性も上がり、なおかつ事務スタッフも安心して勤務できる会社になるはずです。ちなみにこの統計(AIOS標準ver.A3版1枚)は表計算ソフトさえあれば簡単に作れます。
御社でAIOSを作成しない理由は、何かおありでしょうか?