いきなりですが、ここで一度目を閉じて、その昔皆さんが学校で受けた歴史教育を思い出してみてください。私(1965年生) の記憶では、下記の通りでした。
ここで問題なのは世界史です。日本史は現存する世界最古の王朝「天皇」がその軸として存在するため、ストーリーに連続性があり理解しやすいのですが、世界史はそうはいきません。日本史は学べば誰でも分かるのに、「世界史が苦手」という人が相当数いるのは、それが原因です。
先日読んだ『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』 (山﨑圭一 著、SBクリエイティブ刊、2018年8月発行、1,500円(税別))の著者 (県立高校教諭)はこの問題をないがしろにせず、真正面から取り組みました。
山﨑氏はこの本の冒頭 (「ホームルーム」) で「世界史教育の問題点は教科書の構成にある」と指摘されています。その指摘事項は次の通りです。
ヨーロッパ、中東、インド、中国の4つの地域を、あっちに飛び、こっちに飛びで記述されているため、世界史の全体像が一向に浮かび上がらない。その結果、「覚える」ことが学習の中心となり、「世界史はつまらない暗記科目だ」というネガティブな印象を生徒に与えてしまう。
どうです、日本の世界史教育の問題点を見事に捉えているとは思いませんか?問題を指摘するだけの人ならいくらでもいますが、山﨑先生のすごいところは、その問題を解決する対策を編み出し、実行されたところにあります。その対策とは次の通りです。
高校の時、世界史の教科書は山川出版のものでした。4名による共著で、著者は全員東京大学名誉教授でした。その日本を代表する知性が作り上げたのが「世界史嫌い」を量産する教科書でした。
それに対し今回ご紹介している『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』の著者は県立高校教諭です。失礼ながら「勝負は初めからついている」と思えるところです。ところが 昨今の出版不況で大半の本が第一刷で絶版となるこのご時世に、同書は2018年8月27日に初版が刷られて以来11ヵ月間で第34刷まで来ました。これは空前のヒットと言えます。
なぜこの本はこんなに売れたのでしょうか? 私見では次の理由が挙げられます。
世界史とは文字通り「先人の血と汗と涙」で描かれた人類の壮大な叙事詩であり、まさしく「知恵の宝庫」です。その「宝」も文部科学省をはじめとする教育関係者の業務怠慢によって、「宝の持ち腐れ」状態でした。
その「知恵の宝庫 (=人類の宝)」を復活させたのは、県立高校の先生でした。「これで教えろ!!」と文科省から押し付けられた認定教科書ではせっかくの「宝」が活用できないことに真剣に悩んだ末、思い切って発行したこの本は世間の潜在ニーズをものの見事に捉え、空前のヒットとなりました。
だいぶ先の話ですが、山﨑先生はあの世で歴史上の偉人達から「君が山﨑君か! よくやってくれた!!」 「君こそ、我々の苦労を後世に伝えてくれた恩人だ!!」等、絶賛されることでしょう。あの世に向かう渡舟の上で、三途の川の向こう岸から湧き上がる大歓声に戸惑う山﨑先生を想像すると、思わず笑みがこぼれてきます(笑)。
「業務改革を成し遂げるのは、若者・馬鹿者・よそ者(異端者)のいずれかだ」という言葉がありますが、私の経験から言っても真実をついています。業界の主流から始まった改革事例など聞いたことがありません。問題がより顕著に表れる末端や周辺にいる者が困り果てた末に断行する業務改革が次の世代の主流となる、というのがことビジネスに限らずすべての歴史が教える真実です。
20世紀最大の物理学者アインシュタインは、当時物理学会の定説であったニュートンの古典力学では光や電磁気について説明がつかないことに悩んだ末『相対性理論』を構築し、現代物理学 (量子力学・原子核物理学・素粒子物理学・天体物理学・宇宙論等) への扉を開きました。物理学の世界で後年「驚異の年」と呼ばれることになる1905年に発表された彼の3本の論文は、著者がスイスの無名の特許局員によるものだったため、当時物理学会から無視されました。その後しばらくして認められ、その理論は古典物理学を塗り替えることとなりました。
世界史の教科書および物理学の事例からも分かる通り、「まだ課長なので…」「中途採用者なので…」 「本社勤務じゃないので…」 「担当者なので…」 「上司からの指示がないと…」 「目の前の業務に手いっぱいで、とてもそんな余力がなくて…」 などはすべてやらないための言い訳に過ぎません。前述の山﨑先生が聞いたら「やらないやつほどやれない理由を列挙する、っていうのは本当ですね」と苦笑されてしまいますよ。
皆さんのお勤めの営利企業の存在意義は「利益を上げて法人税を納め社会を支える」です。そのためにはまず、あなたの部署(会社)を黒字化する必要があります。そのためにはあなたの持つ経営資源である従業員や部下を最大限に活用しなければなりません。これが部下を預かる者の使命 (ミッション)です。
経営者ならびに管理職の皆さん。皆さんはその職務達成手段として4つの「経営資源」をお持ちです。その「人・物・金・情報」をフルに活用すること (=組織マネジメント) こそ、皆さんに一番求められている仕事のはずです。それを適当にやっている (=組織マネジメントシステムの構築に取り組まない)ようでは、「本気」で仕事をやっているとは言えません。
あなたは「本気」で仕事をしていますか?