幼稚園~高校まで工作少年だった私は、設計者になるのが夢でした。大きくなったら戦艦大和を超えるすごい軍艦を作って米英に一泡吹かせてやろうと、日々図面を引く軍国少年でもありました(笑)。15歳の時交通事故で長期入院し理系科目が壊滅、その後哲学青年となった後も、設計者に対するあこがれの念は残りました。私のセミナー受講者の54.1%(2020年6月現在)が設計・開発部員なのも、何かの縁かもしれません。
そんな私が前職(中堅部材メーカー)に入社した際、設計者がどのような人なのか非常に興味がありました。「工場」とは設計者が考えたものを実現してくれる、いわば「夢の実現装置」です。設計者はさぞ夢・希望・やりがいをもって働いているんだろうなぁ、と思っていました。
しかし私が前職で目にした設計者は、慢性化した残業・休日出勤で疲弊した人ばかりで、そんな気概を持った人は少数でした。私の『設計部門の「見える化」セミナー』のテキストの冒頭には、次のように記されています。
【 今日の設計部門の置かれている状況 】
上記1~7を読んでどう思われましたか? 「うちはここまでひどくないぞ!!」という方もいることでしょう。しかし受講者アンケートやメールでは、「まさしく私の所属する設計部の実態そのものです」 「弊社の実態をついており、感心すると同時に悲しくなりました」 「角川さんはなぜ、当社設計部の実態をご存じなのですか?」等々の声が寄せられています。
私は今までに設計部門の従業員アンケートを5社から委託されましたが、大変なのは集計作業(200~100名分)だけで、分析と対策案立案作業は容易でした。その理由は、設計者の不平・不満・お悩み事項が8割がた同一だったためです。
【 各社共通の設計者の「本音」およびその原因 】
どうです? 御社でも該当するものはありませんでしたか? 自由筆記回答集計の際、私はただ原文を転記するのではなく、文体を統一したり文言や文章を修正し、読みやすくします。そのため回答を熟読するのですが、回答欄に記された文章の行間から、「お願いですから私を設計業務に集中させてください!!」という設計者の「魂の叫び」が私の耳には確かに聞こえました。
上記①~⑤の原因は大きく2つです。一つは顧客が異常に強い日本のビジネス風土によるものです。もう少し営業が存在感を増さない限り、設計部員は顧客の奴隷化してしまいます。
私が親会社の情報システム事業部に出向し、新築の某大企業本社ビルのシステム配線工事を担当していた時の話です。翌朝入居してくるフロアのレイアウト図が顧客から出てくるのが、なんと前日の16時でした。それからタイルカーペットを引っ剥がし、ハブスイッチ・LANケーブル・電源タップのレイアウトを変更です。徹夜で作業し、9時に引越し業者が来る直前に完了したことも度々でした。2週間にわたる引越し期間中は近隣のカプセルホテルが定宿でした。久々に帰宅したら、妻に驚かれたくらいです(笑)。
この時ばかりは「お客様は神様です!!」を広めた国民的歌手、故三波春夫氏を恨めしく思ったものです。この言葉のおかげで、罪もない人々(業者)がどれほど苦しめられていることでしょう。特に飲食業・小売業・サービス業の皆さんは、モンスター化したお客様から甚大な被害を受けています。
太平洋戦争初期に圧倒的な戦果をあげた名機ゼロ戦の設計者堀越二郎氏は高速力 ②軽快な運動性能 ③長大な航続距離 ④重武装 という相反する顧客要求に対し、その優先順位を尋ねたところ「全部だ!!」と回答されました。「それは無理です」と反論すると「うるさい!! 黙って俺の言った通り設計しろ!!」と軍人に殴られました(「2回その現場を目撃した」との部下の証言あり)。日本を代表する名設計者にしてこの扱いです。
原因のもう1つは、組織マネジメント不良(人財育成不良を含む)です。これは25年前私が親会社で見た実態 (慢性化した過重労働に起因する病人・メンタル不全者・病死者・自殺者・離婚者続出) と何ら変わりありません。ひょっとするとゼロ戦の設計が行われていた80年前と比べても、ほとんど変わっていないかもしれません。通信インフラが格段に進歩したにもかかわらず、日本企業の組織マネジメントはこの四半世紀の間、ほとんど進化していません。間接業務の生産性が先進国中最下位なのもうなずけます。
前述のビジネス風土異常(強すぎる顧客)を是正するのは、大変かつ時間がかかりますが、組織マネジメント不良の方はその気になれば短期間で是正可能です。『組織マネジメントシステム』『自立型人財育成システム』を自社構築すればよいのです。
ただし、両システムをトップダウンで導入に走るのは早急であり、また乱暴です。「急いては事を仕損じる」というではありませんか。経営者や管理職の意見や施策を従業員(部下)に「押し付け」ては、失敗します。まずは、従業員(部下)の「本音」を虚心に聞くことから始めるのが、成功の鉄則です。
「従業員(部下)の本音を知るのが怖い」という方は、「本音を知るメリットとデメリット」を天秤にかけることをお勧めします。優秀かつプライドの高い設計・開発部員は、自身の悩みやお困りごと、不平・不満を上司に伝えることはありません高圧的な顧客、設計者の「人の盾」になってくれない自社の営業に言いたいことは山ほどあるのにその口を閉ざし、ただひたすら頑張ってしまいます。「見える化」セミナー冒頭で紹介している、前職のN設計部長がその典型です。
それをいいことに現状を放置した結果、①メンタル不全発症 ②健康障害発症 ③設計品質低下による製品事故、が御社を襲います。特に③は御社にとって致命傷となりかねません。この「不都合な真実」に対し見て見ぬふりを決め込む経営者(管理職)の背中を、従業員(部下)はどんな目で見つめていることでしょう。従業員(部下)ひとり一人に親・配偶者・子供がいることもどうぞお忘れなく。
「愛社精神」という言葉が遠い過去の物となった今、そんな会社に愛想を尽かし優秀な設計・開発者から外資系企業に人材流出してしまいます。プロ野球を見てください。優秀なプレーヤーはアメリカの大リーグに流出し、日本の各球団は今や大リーグの二軍化しているではありませんか? 私は日本メーカーが同様の事態に陥ることを、本気で心配しています。プロ野球の二の舞を踏まないためにも、ほんの少し勇気を出して設計者の「本音」に耳を傾けてみませんか?
あなたは設計者の「本音」が気になりませんか?