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メルマガ第109号

あなたは製造業の「強み」を認識していますか?

 1868年の明治維新以来、政府が強力に推進した富国強兵政策の「富国」を担った製造業は、50年前全労働者の26%が就業する国の基幹産業でした。その後脱工業化社会化が進み、現在では17%程度の就業率となっていますが、依然としてこの国を支える大きな力であることに変わりはありません。

 ここで皆さんにちょっと考えていただきたいのですが、製造業の「強み」とはいったい何なのでしょうか?

 先日見た映画『メイキング・オブ・モータウン』(2019年公開、米英共作)の主人公ベリー・ゴーディ・Jr.は開業したレコード店を潰してしまい、やむなく自動車製造工場で作業者として働きます。そこで目にしたものがこの黒人青年の運命と世界の音楽シーンを変えました。

 フォードの自動車工場の生産ラインで彼が見たものは、1枚のシャーシが数多くの工程を経て様々な部品が組付けられ、最後にはピカピカの新車としてラインアウトする『仕組み(システム)』でした。凡人なら「すごいなぁ…」と感心して終わってしまうところですが、ベリー青年が違ったところは、このシステムは自分が一山当てようと考えている『音楽業界』にも転用できるのではないだろうか? と考えたことです。

 発掘した新人(シャーシ)に音楽・ダンス等のレッスンを実施(部品組付)し、その品質を管理します。それをツアーに出し競争させることにより選別し、商品価値を高めます。そうすることによって彼が創業した音楽レーベル『モータウン』は全米No.1ヒットを連発する伝説の会社となりました

 同社から輩出されたアーティストは、スモーキー・ロビンソン、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダー、スプリームス(ダイアナ・ロス)、テンプテーションズ、ジャクソン5(マイケル・ジャクソン)、コモドアーズ、ニール・ヤング等、キラ星揃いです。全米No.1のヒット曲を180曲以上送り出した同社がこの世に存在しなかったら、今日洋楽は随分とさみしいものになっていたことでしょう。

 同社を音楽業界のレジェンドたらしめた理由は、『歌手製造工場』として実施したシステム化・標準化だけではありません。人種差別の嵐が吹き荒れる1960年代のアメリカにおいて、同社では黒人と白人は全く対等に議論でき、弱冠21歳の女性が役職者として活躍していました。人種・性別・年齢の全ての制約を取っ払い、完全な実力主義で経営されていました。もう一度言いますが、60年前の話ですよ。現在の日本で、この3つの制約が存在しない会社が一体何社あるか考えてみれば、同社のすごさが実感できるはずです。

 またベリー青年は自身が音楽家であるにも関わらず、より優れた才能を持つ10歳年下のスモーキー・ロビンソンに音楽プロデュースの権限を譲渡し、自分はマネジメント業務に徹します。私の仕事は、人の力を最大に引き出すことだ」と言うベリーに対し「どこにでも才能のある人間はいる。ただベリー・ゴーディ・Jrというリーダーはいない」とスモーキーは最大級の賛辞を贈っています。

 社長がすべてを一人でやろうとする会社は大きく成長できませんが、才能を持つ人材に権限を委譲した会社は大化けすることがあります。経営者が技術と経営を分担することにより、本田技研工業(本田宗一郎と藤沢武夫)とソニー(盛田昭夫と井深大)の両社が世界的メーカーとなったことはあまりに有名です。

 歌手の育成プロセスを製造業に学び、システム化および標準化した同社は驚異的な成長を遂げますが、その後「標準化の闇」が同社を襲います。自動車産業はT型フォードの量産で幕を開けます。1910年代に市場を制圧した同車でしたが、街中に同じ車ばかり走っている事態に食傷気味となった市場にフォードは見捨てられ、多彩な製品ラインナップで勝負したGM社にそのシェアを奪われます。

 同様のことが同社でも起きました。お仕着せで画一的なモータウンサウンドからの脱却を図る歌手が続出し、同社から離れていきました。彼らはその後独自の進化を遂げ、世界の音楽シーンをさらに華やかなものとしました。スティービー・ワンダー、マイケル・ジャクソン等がその典型です。

 この映画の終盤で、久々に集合したモータウン草創期のメンバーを前に、黒人初のアメリカ大統領バラク・オバマ氏はこう賛美します。「私がやりたかったこと(アメリカの「分断」の解消)を、半世紀前に成し遂げたあなたたちに心から敬意をささげます」。この賛辞を、90歳になったベリー氏をはじめとする同社OBが満足げに聞いているシーンがこの映画の白眉でしょう。

 最後のシーンでインタビュアーが、歌手たち一人一人に「同社の社歌を歌ってくれませんか?」とお願いしますが、全員が苦笑いし顔を横に振ります。最後にベリー・ゴーディ・Jr氏とその盟友スモーキー・ロビンソン氏が、肩を寄せ合い、身振り手振りで嬉々として歌う社歌は次の通りです。一読すれば、歌手たちが歌ってくれなかった理由がお分かりいただけることでしょう(笑)。

「私たちはイカした会社だ 毎日懸命に働く
身だしなみの整った社員 有能で知識も豊富
正直さが唯一の社訓
1人は1人のために 1人は皆のために
どこより固い結束
ヒッツビィル、ヒッツビィル、ヒッツビィルUSA!! (注) 」
((注)モータウン創業時の社屋の愛称)

 ベリー・ゴーディ・Jrの大成功の秘密は、製造業の強みに気付き、それを異業種に転用したことです。あなたの会社でも、現場の強みである生産管理と品質管理を事務所 (間接業務) でも実施すれば、モータウンと同様の奇跡がきっと起きることでしょう!!

 あなたは製造業の「強み」を認識していますか?

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