⑩TMS研メルマガ一覧表

メルマガ第108号

あなたは「夜」が明けるまで何をするおつもりですか?

 現在我々はコロナ禍による『100年に一度の経済危機』の入り口に立っています。できることなら「悪夢」と思いたいところですが、残念ながらこれが「現実」です。そこで現実逃避に走るのではなく、この現実と真正面から向き合い、何か良いところがないか考えてみます。私見では「ウイズコロナ時代の特徴」は次の通りです。

  1. マインドが「外向き」から「内向き」になる。
  2. 仕事量が薄いため、マンパワーが余剰気味となる。
  3. 在宅勤務にシフトする会社が増える。

 次に上記の「時代の特徴」を「良いところ」に転化してみます。

① 今まで社外に向きがちだった視点が社内に向くようになる。売上向上が期待できないため、社内に潜在する『事務所埋蔵金』発掘(=経費削減)に目が向くようになる。
→ TMS研HPの『事務所管理システム『TMS』とは?』のページの『御社の事務所に眠る「埋蔵金」一覧表』をご覧ください。
② 繁忙時には実施困難な『業務改革』を実施するマンパワーが確保できる。また平時なら発生しがちな「抵抗勢力」も、会社存続の危機である今なら発生しづらい。
③ 毎日通勤に奪われていた時間と体力が、読書や勉強等の自己啓発に回せる。その結果、今まで盲信していた業界(会社・部署)の「常識」から解放され、新たな視点で自分(自社・自部署)の業務を見直すことができるようになる。
④ 自宅が「住居」から「オフィス」化することにより、業務生産性向上のため家の5S (整理整頓)に取り組むようになる。その結果、物を減らす(捨てる・処分する) ことの大切さに気付くようになる。

  ここからは、上記④「ものを減らすことの大切さ」についてお話しします。

 私は前職で5Sインストラクターを務めた経験があります。現場の5S活動を成功させた後、より難易度が高い事務所5S活動に着手する前に、中産連の小林啓子先生の『事務所の5Sセミナー』を受講しました。内容はファイルの5Sでしたが、講義の最後の「本当にファイルを減らしたかったら、仕事自体を減らすことを考えた方がいいわよ」という先生のお言葉に衝撃を受けました。

 また「不要なファイルを探すのは、やれば分かるけどとても効率が悪いのよ。本当に必要なファイルをリストアップして、それ以外のファイルを全部捨てるやり方が一番効率がいいわよ!!」との教えに感動し、渋谷のセミナー会場を後にしました。

 さて皆さんは「ものを減らす(=ムダ取り)」というと、TPS (トヨタ生産方式) を思い出されるのではないでしょうか? 私も『7つのムダ取り』を事務所で実施しようと思い、トヨタ本を数冊読みました。その中の一冊に書かれていたムダの定義は次の通りです。

【 7つのムダ (事務所編) 】

  1. 万能化の「むだ」
  2. 条件固定化の「むだ」
  3. システムそのものの「むだ」(プロセスに潜む「むだ」)
  4. 「あるべき姿」を考えずに改善を始める「むだ」
  5. 全体像を見ないで部分改善しかやらない「独りよがり」の「むだ」
  6. 妥協による「むだ」
  7. 「むだ」を「むだ」と理解しない「むだ」

 どうです皆さん、「上記①~⑦でムダ取りをやれ!」と言われたらできますか?ムダ取りのポイントは「ムダの定義」ですが、上記①~⑦のような抽象的かつあいまいな定義で、本当に間接業務のムダ取りが可能でしょうか? 定義の解釈によって大もめすることはやる前から明らかで、事務局はひどい目にあうだろうなぁ、とつい同情してしまいます。

 また、ムダ取りの一番怖いところはムダの取りすぎです。必要なものをムダと間違えて取ってしまう恐れがあります。現場のムダ取りは、ムダの取りすぎが検査ですぐに発覚するのに対し、事務所(間接業務)の場合は発覚しづらいのが特徴です。そして法令違反等、いざ発覚した際すでに手遅れとなっている可能性が高い点も現場とは異なります。

 付け加えると、「ムダ取り」では「本来必要なのに現在やっていない業務」が発見できません。現場では通用する「現状-ムダ=あるべき姿」という公式が、事務所では通用しないからです。これは人財育成・業務改革・業務遂行方法の標準化等の重要だが緊急度の低い業務が該当します。こちらの方が長い目で見ると会社にとって恐ろしいことです。

 なぜなら「重要性高・緊急度低」業務を疎かにすることは「会社の未来」に投資しない(=食いつぶす)ことと同じだからです。「今さえよければ後はどうでもいい」 という考えがその根底にあり、「ここに投資しているorしていない」はブラック企業判定の指標とも言えます。農家が来春撒く種もみを、冬の間に食べてしまうようなものです。

 また間接業務のムダ取りを実施する際一番の障壁となるのが、ムダ業務を始めた人の存在です。自分を課長に引き上げてくれた上司が10年前に始めた業務が、現在ムダ業務化していた場合を想定してみてください。その上司がすでに退職しているケースを除き、あなたがその業務を「ムダ」と断定し廃止するには、相当な覚悟と勇気を要するはずです。実施者への見返りが定かでないのにリスクのみ高いプロジェクト『間接業務のムダ取り』が長年実施されなかった最大の理由はこれです。

 これらの問題を解決するのが「現状」と「本来あるべき姿」の比較対照によるTMS研流ムダ取り手法です。前述の小林啓子先生のお言葉を拝借すると「業務のムダを取りたかったらムダを探すな、本来あるべき姿を探せ」です。

 「現状」は「見える化」セミナーでお教えしているAIOS (業務体系表)で「見える化」できます。「本来あるべき姿」はPPT (業務目的体系表)で具現化できます。PPTを作成すると部署の本来業務が明確化するので、AIOSとの比較対照で①ムダ業務 ②弱目的業務 ③非本来業務(他部署がやるべき業務)が顕在化します。

 このムダ取り手法の優れている点は『やった方がいい業務(弱目的業務)』が一掃でき、貴重な経営資源(人(時間)・物・金・情報)を『本来やらなければならない業務』に集中投入できる点にあります。

 家の整理 (物量の最小化) で残すものが、①いつも使っているもの ②使用頻度は低いが他のもので代替えが効かないもの(礼服等)、の2つしかないのと全く同じです。それ以外のものを処分すれば家の中がすっきりし、物を探す時間はゼロとなり、在宅オフィスの生産性も上がります。また今まで不要なものを買うのに使っていたお金を必要なものに回すことにより、より高品質なものを買うことができます。

 家と同様に会社でも『本来やらなければならない業務』に経営資源を集中投入すれば、業務品質が向上し会社業績も上がります。パレートの法則 (80:20の法則)によれば、「弱目的業務+ムダ業務」に実に80%の経営資源が使われています。これを『本来やらなければならない業務』に回せば、御社がエクセレントカンパニーになることは間違いありません。

 数ある業務改革手法で、一番生産性と品質が上がるものがムダ取りです。現在流行しているAI化、IoT化も、ムダ取りには遠く及びません。そもそもムダ業務や弱目的業務をAI化・IoT化したところで、会社業績にはさほど寄与しません。

 最強の間接業務改革手法『ムダ取り』が廃れた原因は、『ムダ業務』の定義があいまいであったためです。誰の目から見ても納得できるシンプルな定義であるか否かが、間接業務のムダ取り活動の成否を決定します。

 会社存続を賭けた業務生産性向上活動も、過重労働撲滅の「働き方改革」にも、間接業務のムダ取りは最強の対策です。会社の業種・業態・規模等一切不問で費用対効果が抜群のこの業務改革に今チャレンジしなければ、一体いつやるのでしょうか? 

 日本企業に比べ間接業務の生産性が高い欧米企業では「やることを決め、それ以外はやらない」方針が徹底されています。だからこそ、短時間で日本企業と同等もしくはそれ以上の成果を上げているのです。

 「間接業務のムダ取り」は、いわば会社の「筋トレ」です。ムダな脂肪をそぎ落とし、必要な筋肉を増強することです。ムダな脂肪を「ムダ業務+弱目的業務」、必要な筋肉を「やらなければならない業務」と読み替えればご納得いただけることでしょう。特に「やらなければならない業務」の内、緊急性が低いためついつい後ろ倒しとなりがちな人財育成や業務改革は、仕事量の薄い今が千載一遇のチャンスです。

 光の見えない闇の中で黙々と筋トレに励んだ会社は、体脂肪率ゼロの筋肉質で引き締まった身体を手に入れます。その一方、闇を恐れただ無為無策に時間を浪費した会社は、肥満体のままです。

 長い「夜」が明け、リングの両コーナーに立つ選手(会社)の姿が見えた時、「夜」の間にやるべきことをやった会社とやらなかった会社がはっきりします。勝負は戦いのゴングが鳴る前に決しています。

 あなたは「夜」が明けるまで何をするおつもりですか?

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