縁あって未来工業(株)創業社長の山田昭雄氏の講演を聞き、深い感銘を受けた私は同社の工場を見学し、さらに驚きました。私の頭では同社の経営方針を理解しきれず、工場見学報告書を作成中に疑問点が次々と湧き出て、同工場を再度訪問したほどです。工場長さんや品質保証課長さんが私の質問に丁寧に答えてくれ、今では同社についてかなり理解できた気がします。
山田氏は先行する大メーカー4社と競合するために、社員のやる気と能力の最大化を図りました。そのために①社員が喜ぶこと(会社に望むこと)はすべてやる②社員が嫌うことは極力やらない、の2つの方針に沿った施策を実施します。①については前回触れましたし『未来工業本』にもよく紹介されていますので、今回は②についてお話しします。
先行する大メーカーに勝つために、山田氏は社員に仕事を楽しんでもらえる会社づくりを目指しました。そのため社員が嫌がる「管理」を極力排除しました。担当者に(普通の会社では考えられないほど)大幅に権限を委譲し、裁量権を与えました。上司への「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」禁止という徹底ぶりです。こんな会社では担当者は働きやすいし、なにより「やりがい(達成感)」がありますよね。
この方針のおかげで未来工業の社員さんは、実にのびのびと楽しんで仕事をしています(私が同社見学ツアーで一番見てもらいたいものは、実は社員さんの「顔」「表情」です)。担当者への大幅な権限移譲の結果、同社は①自分で考え、自分で決断できる人財 ②他社に比べて圧倒的に早い決定スピード、の2つを得ました。これこそが同社の「強み」なのです。
講演会で山田氏は「自分は「管理」という言葉が大嫌いだ。なんだか偉そうな感じがする」と言っていました。同社を理解するキーワードの一つに「無管理の管理」というものがあります。山田氏がこの経営方針を採ったのは決してヒューマニズムからではなく、日本人はあれこれと管理して仕事を「やらせる」より、権限を与えて自分から「やりたくなる」ようにした方が儲かることを知っているからなのです!! 私には山田氏が『日本人を使うプロ』に見えます。
話は変わりますが、私は学生時代将棋が趣味(全盛期で四段弱)で、棋書の他に勝負論の本もよく読みました。そんな中で、こんな言葉が記憶に残りました。それは「楽しんでいる人には勝てない」というものです。解説すると「どんなに一生懸命やったとしても義務感・使命感でやっている人は、それ自体を楽しんでいる人に勝つことは出来ない」という意味です。この言葉は、われわれの仕事にも当てはまるのではないでしょうか? そしてこれこそ「仕事を楽しんでやる」必要性に他なりません。
あなたは「仕事」を楽しんでいますか? また御社には「社員が仕事を楽しめる仕組み」がおありですか?