私の故郷茨城県日立市は、言わずと知れた日立製作所の企業城下町です。そこで生まれ育ったため、日本の各地にある企業城下町を訪問すると里帰りしたような錯覚にとらわれることがあります。24年前に仕事で1週間滞在した、神奈川県南足柄市もその一つです。
行くまで全く知らなかったのですが、同市は富士フイルム㈱の生産拠点でした。見渡す限り立ち並ぶ大工場群と社宅、アパートの情景は、私が育った日立市の風景を彷彿とさせるものでした。そんな私の想いとは別に、当時同社は会社存続の危機に直面していました。そう、デジタルカメラの普及による写真フィルムの需要激減です。
写真フィルム業界の巨人イーストマン・コダック社の背中を追い続けること数十年、2000年に同社はコダック社を抜き去り世界一に上り詰めます(国内シェア7割)。その絶頂期から十年、写真フィルムの需要はなんと10%以下になります。同社の売り上げの6割、利益の三分の二を占めていた写真フィルム市場のほとんどが、あっという間に消滅してしまったのです!!
「本業喪失」状態となった会社の社長就任を持ちかけられたら、皆さんは引き受けますか? 正しく「火中の栗」を拾うようなこの話を、引き受ける人なんているのでしょうか? これから皆さんにご紹介する『魂の経営』(東洋経済新報社、2013年刊行)の著者 古森重隆氏は、2000年に同社社長に就任しました。この本の冒頭には、こう書かれています。
車が売れなくなった自動車メーカーはどうなるのか。
鉄が売れなくなった鉄鋼メーカーはどうすればいいのか。
我々は、まさにそうした事態、本業喪失の危機に直面していた。
それまで同社のドル箱であった写真感光材料事業が、わずか5年で赤字に転落するという創業以来の未曽有の危機を迎えたタイミングで、同氏は社長に就任しました。こういった危機的状況下では、トップマネジメント(リーダー)の力量が組織の生死を分けることは、昨今のコロナウィルス戦争に対する各国首脳の対応を比較すれば容易に理解できるはずです。
古森社長は「この絶対に負けられない戦い」に対してドラスティックな構造改革で立ち向かい、2007年同社は売上高・営業利益とも過去最高の数字をたたき出しました。一方ライバルのコダックは、2009年のリーマンショックでとどめを刺され、2012年に破たんしました。経営者の才覚一つによって、長年ライバル関係にあった両社は、まさしく明暗を分けたのです。
昨年10月の消費税増税に続く今回のコロナウィルス戦争で、皆さんの会社も多かれ少なかれダメージを受けたところが多いことでしょう。また今後に不安を抱えている方も多いと思います。そんな方々にぜひ古森社長の『魂の経営』の一読をお勧めします(AMAZONの試し読みで同書のインデックスが見られます)。「本業喪失」という絶体絶命のピンチをチャンスに変えた同氏の考え方と手法が参考になることでしょう。
2000年の写真フィルム業界と同様に、現在存続の危機にある業界があります。ビジネスセミナー業界です。同業界の現状は次の通りです。
20世紀なら①~③のトリプルパンチで、セミナー会社は全滅していたことでしょう。しかし今は情報インフラの整備された21世紀です。何か活路は見いだせないでしょうか? その答えが『WEBセミナー』です。これによって、皆さんの勤務先やご自宅でもセミナーを受講できるようになりました。もう東京に行く必要はありません。
現状は受講日時が決められている『ライブ放映』ですが、いずれ時間的制約も撤廃した『ストリーミング配信』に移行すべく現在セミナー会社さんと打合中です。これが実現すれば、8タイトルある私のセミナーがいつでもどこでも受講できるようになります!! これが今回の「セミナー業界存続の危機」を「チャンス」に変えた新ビジネスモデルです(詳細は添付①をご覧ください)。
その他2つの事業においても、現在ビジネスモデル転換を推進中です。
さて、今回のメルマガのタイトルにある『エンジニアリング』の意味は、一般に次の通りです。
【エンジニアリング】 | 科学技術を応用して物品を生産する技術。また、それを研究する学問。工学。(三省堂 大辞林 第三版) |
そのエンジニアリング思考を経営部門に転用した『経営工学』とは「今ある経営資源(人・物・金・情報)を活用し、システム(ビジネスモデル)の設計・改善を行う学問」です。
皆さんも失ったものを嘆くより、御社に残された経営資源で何か新しいことができないか考えてみませんか? 明けない夜はありません。しかし夜が明けた時勝者となっているのは、夜の暗闇で朝に備え準備した人だけであることをお忘れなく。
あなたは「エンジニアリング思考」できてますか?