高校の国語教師だった母は、私によく本を読ませました。小学4年生の時に買ってくれた『ポプラ社の特選良書詰合せ』(全30冊)の中にネパールで働いた医師、岩村昇先生の著書『ヒマラヤの孤児 マヤ』があり、私の愛読書でした。母が通っていたキリスト教会の信者Fさんが20代の時、岩村医師の考えに共鳴し保健師としてネパールに赴任、マヤちゃんと仲良しだったということを5年前にFさんから聞き、心底驚いたことがありました。
児童書出版社であるポプラ社の本を、先日45年ぶりに手に取る機会がありました。『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(堀内都喜子著、ポプラ新書)です。裏表紙には「ワークライフバランス世界1位! フィンランド流 ゆとりのある生き方」として、次のように書かれていました。
フィンランド人は仕事も、趣味も、勉強も、なんにでも貪欲。でも睡眠時間は平均7時間以上。ヘルシンキはヨーロッパのシリコンバレーと呼ばれる一方、2019年にワークライフバランス世界1位。やりたいことはやる。でもゆとりあるフィンランド流働き方&生き方の秘訣を紐解く。
2年連続で国民の幸福度が世界第1位のフィンランドですが、二度の世界大戦による戦禍を免れ国富を損じなかった隣国スゥエーデンとは異なり、その歴史は苦難に満ちたものでした。100年前まではスゥエーデン、ロシアに支配されたヨーロッパでもかなり貧しい国でした。ロシア革命が起きた1917年に独立宣言するものの、1939年にソ連と戦ったことから第二次大戦の戦敗国となり、多額の賠償金を課せられました。1991年には経済危機もありました。そんな状況から、努力を積み重ね今日に至っています。その努力の一端をご紹介します。
【 「良い会議」のための8つのルール 】
その他にも「立って仕事」 「効率を徹底的に追及」 「ボスのいない働き方」 「最大限能力を発揮するために」 「本人の意思を尊重」 「オープンでフラットな組織」 「男女差別は皆無」など、参考になる事例がたくさん紹介されています。ぜひご一読されることをお勧めします。
それに対して日本企業はどうでしょうか? 従業員の資質の高さと勤勉な国民性に頼り切りで、フィンランド企業のような組織的な努力を自主的に行っている会社は極めて例外的ではないでしょうか?
ここで話は変わりますが、先日悲しい本を読みました。『日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の真実』 (吉田 裕著、中公新書)です。その裏表紙には次のように記されています。
310万人に及ぶ日本人犠牲者を出した先の大戦。実はその9割が1944年以降と推算される。本書は「兵士の目線・立ち位置」から、特に敗色濃厚になった時期以降の太平洋戦争の実態を追う。異常に高い餓死率、30万人を超えた海没死、戦場での自殺と「処置」、特攻、体力が劣悪化した補充兵、靴に鮫皮まで使用した物資欠乏…。勇猛と語られる日本兵たちが、特異な軍事思想の下、凄惨な体験を強いられた現実を描く。
この本を読むと、日本型組織の欠点がほとんど網羅されている感があります。靖国神社に祀られている英霊のほとんどが敵兵と戦い死んだ (名誉の戦死)のではなく、組織マネジメント(注.1)の劣悪さにより「祖国に殺された」ことが分かります。私も前職で長年にわたる過重労働を放置され、会社に殺されかけた経験 (過労で入院)があるので、同書を読み無駄死にした兵士の無念さを想い、とても悲しい気持ちになりました。
日本は奴隷制度が存在しなかった唯一の先進国かつ植民地・宗主国経験もなかった(注.2)ため、組織マネジメント技術は発達しませんでした。そのため担当者ひとり一人の資質とやる気に頼ることが多く、二割の「仕事のできる人」に仕事が集中する傾向があります。従来は「仕事ができる人」優秀な人は愛国心 (愛社精神)によって国内 (日本企業)に留まってくれましたが、昨今では躊躇(ちゅうちょ)なく外資系企業に転職するケースが増えています。
同様に世界のトップ100にわずか2校 ( 東大:36位、京大:54位 )しかランクインできない日本の大学に愛想を尽かした高校生が、いきなり海外の大学に進学するケースが増えてきています( 従来は日本の大学に入学・卒業してから行くケースがほとんど )。茨城県の県立高校からハーバード大学に進学した生徒が出た、との報道を目にしたときは愕然としました。海外の大学を卒業した日本人が、日本企業を就職先に選ぶことは稀であることは説明不要でしょう。このままでは、プロ野球が米大リーグの二軍化しているように、日本企業が外資系企業の二軍化してしまうのは時間の問題です。優秀な若者は日本(日本企業)をすでに見限っています。
あなたは「この国に生まれて幸せだった」とお思いですか?